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NEXT STAGE

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NEXT STAGE
撮影現場の第一線で活躍中の若手フォトグラファーの仕事と、彼らが愛用する機材を紹介します。
公開日:2014/03/14

フォトグラファー 上野由日路/Ueno Yoshihiro

CAMERA fan編集部


プロフィール


イラストレーターになろうと入学した、広島市立大学 芸術学部 美術学科。
「周囲がスゴすぎて……」
 挫折を覚えつつ卒業。

??上野由日路(うえの よしひろ)、38歳。写真家。

 広島大学在学中は、イラストレーターとしての道を考え直すことになるものの、クルマ好きが高じて、クルマの写真をよく撮っていたという。
 初めて使ったカメラは、父親の使っていたキヤノネット、そしてチノンのコンパクトカメラ。
 初めて自分で買ったカメラ、キヤノンA-1にはシグマのズームレンズが付いていた。

「それまでは独学だったのですが、大学を卒業してから、写真を学ぼうと、東京ビジュアルアーツの写真科に入学しました。卒業後、現場の技術を学びたかったので、六本木スタジオに入り、そこで2年3か月働きました。六本木スタジオでは、まかないを作れることが条件で、毎日20人分くらいの食事を作っていましたね。ただ、僕は、大学を卒業した後に専門学校に行って、そこからスタジオに入っているので、周囲よりも遅くて、2〜4歳くらい年齢が上だったんです。だから、焦りはありましたね」

 六本木スタジオを辞め、独立。

「独立というほどでもなく、フリーランスでアシスタント業も兼業していました。まだ駆け出しでしたから、アシスタントの方がギャラがよかったんです(笑)」

 現在は、音楽関連や舞台撮影の仕事を中心に活動する傍ら、オールドレンズを使って作品制作も行なっている。


<上野由日路・EQUIPMENT>


左側のひと際大きなレンズは、シュナイダーのシネゴン20mmF2。これらのレンズを装着するボディとして、オリンパスのミラーレス機E-P3を愛用する。ボディに装着されているレンズはカールツァイスのシネプラナー50mmF2。上野さんが“キング”と呼び愛する一本だ。その右にあるシルバーの鏡胴のレンズはケルンのオートスイター50mmF1.8。ALPA用のレンズである。“クイーン”と称するこのレンズは、ピントはしっかり来るのに柔らかで芯のあるボケが美しい。さらにその右側はテーラーホブソン社製造のクック スピードパンクロ40mmF2。ハリウッドでいちばん使われているシネレンズというお墨付き。その手前にある、ピントリングの指かけが愛らしいたたずまいの2本は、左がシュナイダーのシネクセノン50mmF2、右は同25mmF1.4。


シネレンズとの出会い


出会いは、機材好きの上野さんが自分で呼び寄せたものだった。

「カメラやレンズなどはもちろん、機材がとても好きです。3〜4年前、フィルムカメラのレンズをデジタルカメラに付けて撮るというのが流行っているんだなという流れをなんとなく知っていて、シネレンズをカメラに付けて撮影できるということを知りました。でも、それがCマウントやArriflexマウントとは知らず、単純に“面白そう”という好奇心だけで、友人と中古カメラ店に行ったんです。

そのとき、お店の店主さんがお持ちだったパナソニックのGF1にアダプタをつけ、シネクセノン25mmF1.4を装着してみたんです。

こんな世界があるんだ! と衝撃を受けました。そのとき、レンズを即買いしました」

 シネレンズとの出会いがあるまで、デジタルカメラとの付き合いは手探りだったという。

「デジタルカメラはキヤノンのD60がスタートでした。知人が持っていたものを譲ってもらったんです。印刷とのマッチングもそうですが、キャリブレーションに懐疑的だった僕は、撮影現場での複数のモニターすら合わせることができないのに、撮ったものと出力側を絶対的に合わせることはできないと感じていました。

もちろん、プリントをすれば、また違った結果になります。

どうしても自分自身の出したい色があるときには、印刷所に菓子折りを持って何度も足を運び、刷り出しを確認したりもしていました。自分で印刷所を選ぶことができる仕事では、よく分かってくれる印刷所を指定したりもしましたね。

シネレンズに出会う前までは、“味”というのはPC上で作り出すものだと思っていて、撮影はいわばスキャン作業の延長のように考えていました。

でも、シネレンズに出会ったとき、インプットの段階で味が出せるんだということに、とても大きな衝撃を受けたんです」

 元来、研究熱心な上野さんは、さまざまな試行錯誤を重ねて、やっていけばテイストとして使っていくことができそうだという手ごたえを得る。


カールツァイス シネプラナー50mmF2 (左)、ケルン オートスイター50mmF1.8 (右)


「仕事で使えるなということは、直感的に分かりました。

シネレンズやオールドレンズを、作品作りだけでなく、仕事でも使う理由に“ニュアンス“があります。

比較的古いレンズは素直な描写をします。まぶしいときにはハレーションが起きます。ですが、順光のときには驚くほどシャープに写ります。
その感じが心象風景に近いんです。

もちろん、レンズによってその“ニュアンス”は違うのですが、それがレンズの性格だと思っています。

とくにシネレンズはある種、意図的にそのニュアンスを残している気がするんです。撮影者が撮影時にコントロールできるよう、あえてそうしているのかもしれません。

現代のレンズは、難しいシチュエーションでも破綻なく、均一に写りますが、表現の幅は古いレンズに比べて狭い。

オールドレンズやシネレンズは使い手の工夫次第でさまざまな表情を見せてくれます。それが、オールドレンズやシネレンズの最大の魅力です。」


現在の上野さんの仕事の“強力打線”を組むレンズは先に紹介している6本だという。

 なかでも、上野さんが「キング」と「クイーン」と呼ぶ2本が、カールツァイスのシネプラナー50mmF2、ケルンのオートスイター50mmF1.8だ。

「かたくてしっかりとした色、濃密感のある描写、そしてプリントすると、3D写真のような立体感で、僕は“キング”と呼んでいるのですが、カールツァイスのシネプラナー50mmF2はとても好きな1本です。写りが太い感じが男性っぽいなと思っています。

また、“クイーン”と呼んでいるのは、ケルンのオートスイターで、とても柔らかな写りです。しかもピントはしっかりきます。柔らかいといっても、溶けて背景の形のなくなってしまうようなボケではなく、しっかりと芯のある柔らかさで、ほかにないぼけ方をします。ポートレートにはとてもいいレンズだと思っているんです」

 研究熱心で、レンズのいいところを十分に知り尽くした上野さんならではの言葉だ。

一方で、中古カメラ店めぐりも大好きだという。

「時間があったら、毎日でも中古店をめぐっていたいくらい、中古カメラ店パトロールが好きです。
お店の人とはよく話します。そこから得る情報も多いですし、なにより楽しいですからね。」




シュナイダー シネクセノン50mmF2


「僕は実用としてシネレンズを使っていますから、必ず試してから購入します。実戦に投入するには、コンディションの良し悪しがいちばん気になるところで、再研磨に出したりすることもあります。

シネレンズは、実際はコレクション的なジャンルなんです。でも、そこをあえて実用として使うために、レンズそれぞれの個性を生かしたいという思いで、このレンズのここが最強!という部分を探していくのがとても楽しいですね。

レンズの“スイートスポット”と呼んでいるのですが、とにかく、買ったらたくさん撮って、レンズのいいところを探し、打線のどこに入れるのかを探ります。
いつかはこの“キング”が陥落して他のレンズの取って代わる日も来るかもしれません(笑)」




RIFA LC88
SUNPAK auto4205G THYRISTOR


上野流ライティング



スタジオ勤務の経験がある上野さんは、ライティングにも独自のこだわりがある。

「シネレンズや、こういった古いレンズには、定常光が合うと思っていて、太陽光に近く、影の出かたの柔らかなタングステンのライトを使うことが多いです。写真電気工業のRIFA-T (80×80cm ピン式)をメインに使用しています。CCDと定常光の愛称がいいんです。

オールドレンズでは、開放からF4くらいまでを使いたいのですが、スタジオ用ストロボでは出力の問題で、そこまで絞りを開けることができない、だからSUNPAKストロボを使っているということもあります。

光の質は、水に似ていると思っていて、ストロボが真水だとしたら、タングステン光は粘度が高いというか、もう少しとろみのあるような感覚でしょうか。

デジタルでは、ホワイトバランスの設定ができるので、色温度からも解放されましたし、タングステンを使っても、色味には影響はないですね。

キャッチライトなどに、ストロボを入れることもあるのですが、SUNPAKのグリップストロボをスタジオ機材が使えるようカスタマイズしています。
これを自由雲台でスタンドに付けて、必要に応じて使っています。」

 上野さんは、デジタル、アナログ、古い、新しいにかかわらず、自分の表現に応じて、さまざまな道具を自分流にアレンジする。

「デジタルなのか、アナログなのか、自分でもよくわからないですね(笑)

でも、そういうことではなく、両方のいいところをどうにかして使いたいと思っています。

シネレンズは、全力で解像してくれるんです。開発時に採算度外視で作っているというか……。フィルムの再現力に合わせてレンズを設計するという発想ではないところがいいですね。

特に銘玉と呼ばれるものは、本当にすごいですよ。ここまで解像するのかと驚くほどです。」




<上野由日路・PHOTO WORKS>

オリンパス E-P2 /Schneider Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4/マニュアル F2.8 1/100秒 ISO400
モデル:凛



オリンパス E-P2/Schneider Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4/マニュアル、F2.8、1/50秒、アートフィルター:トイフォト/ライティング:RIFA 500W
モデル:スザンナ


オリンパス E-P3 / Taylor&Hobson cooke speedpanchro 40mm F2 / マニュアル、F2.8、1/200秒、ISO400 / ライティング:自然光+RIFA 1Kw  モデル:山地まり


オリンパス E-P1 / Schneider Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4 / マニュアル F2.8、1/500秒、ISO200 /アートフィルター:ポップアート/トリミングあり


オリンパス E-P3 / KERN Aarau SWITAR 50mm F1.8 / 絞り優先、F2.8、1/4000秒、ISO400


オリンパス E-P3 / Schneider Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4 / マニュアル、露出+1、F2、1/160秒、ISO400 / アートフィルター:ポップアート / ※繰り出しマクロ

これから使いたいカメラ〜


「いま、これらのレンズに対して、ボディはオリンパスE-P3をメインに使っているのですが、ソニーのα7Rにも注目しています。フルサイズということもありますが、あの色が、オールドレンズとの相性もいいんじゃないかと思うんです。
センサーが変われば、さらにレンズのポテンシャルも生かせるのではないかという期待もあります。」

 上野さんは、実際の撮影現場でオールドレンズを使っているというだけでなく、この世界の入口を知らない人たちにも、ぜひ楽しんでもらいたいという。

「いまもワークショップを行っているのですが、どんな写真を撮りたいかで、オールドレンズをチョイスし、実際に撮影して楽しめるような、オールドレンズコンシェルジュのような活動も、どんどんしていきたいですね。もっとシネレンズで撮影を楽しむ人を増やせるようなことをしたいですね。

実際は、ディープ過ぎるのか、仲間が少なくて(笑)

それに、こんなにいいレンズの当時の知識を持っている人たちが、世の中からいなくなってしまったら、本当にもったいないと思うんです。
もっと勉強して、そういうところも伝えていけたらいいですね。

オールドレンズを使う写真家といえば、澤村徹さんのイメージが強いですね。私は大ファンなんです、いつかお会いしたいと思っています」



オールドレンズで撮影されたPV

Beatless /Meeks

THE BEATLESのシューゲーザーカバーアルバム『Beatless』のためのPV。
ザ・ビートルズの名曲をシューゲーザーアレンジでカバーしたアルバム。
シューゲーザーはロックのジャンルでマイ・ブラッディ・バレンタインのアルバム『ラブレス』が有名。今回の企画にあたりBrokenLittleSisterというバンドがMeeksとして参加。曲の世界観を生かすためにアナログでノスタルジックながらもポップなテイストのPVにしようというアートディレクターの意向もあり、シネレンズを使い少しコマ落ちしたような映像になっている。
使用機材:E-P3+Schneider Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4 、Schneider Arriflex Cine-Xenon 50mmF2



上野由日路
ウェブサイト:
http://raylow331.wix.com/raylowworks
ブログ:シネレンズとクラシックレンズで遊ぶ!:http://ameblo.jp/raylow/




【取材協力】スタジオ d21(ディーツーワン)
スタジオ d21
住所:東京都新宿区本塩町11
TEL:03-3354-0041
URL:http://www.studiod21.co.jp

アップにも十分に対応できる、きめ細かな白ホリスタジオ。広々としたスペースで、ゆとりあるライティングが可能。思いのままに動かせる、斜・真俯瞰ピットも完備している。


Interview & text:笠井里香
Photo:CAMERA fan編集部



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<カメラファンがオススメする書籍>

 
IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」南雲暁彦・著


「個性あふれる"私らしい"写真を撮る方法」野寺治孝・著

これからフィルムカメラをはじめたい人のためのガイドブック

フィルムカメラ・スタートブック」大村祐里子・著
 
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