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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2014/04/07

ニコンAi NIKKOR 50mm f/1.8S

photo & text 上田晃司

非常にコンパクトなレンズのためD800Eに装着すると若干不格好。少し大きめのフードが似合いそうだ。
Lens data
●生産国:日本
●発売期間:1980年頃 〜不明
●販売価格:10,500円
●シリアル:2091282
●製造年:1980年頃
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1980年(昭和55年)頃。モスクワオリンピックが開催さるが、ソ連のアフガニスタン侵攻に西側諸国が抗議し、アメリカ、西ドイツ、日本など67ヵ国がボイコットした。経済では日本の自動車生産台数が1,000万台を超し、世界第1位に。現在でも発売されるポカリスエットや緑のたぬき天そばが生まれた年でもある。



レンズは一昔前のニコンらしいデザイン。一部プラスチックなども使われ少しチープに感じられるが、マウントはしっかりとした金属製を採用している。
絞り羽根は7枚で円形絞りではない。カメラにレンズ情報を連動させれば絞りリングが使える。絞り変更は基本一段刻みだが、開放f1.8の次だけはf2になる。
パンケーキレンズといわれるだけあって、薄い。重量を測ってみると175gと非常に軽量であった。なお、レンズ面はマルチコーティングとなっている。

D800Eの3千万画素でオールドレンズを愉しむ


数年前、モノクロスナップの写真集を見て感化され「これからはモノクロフィルムで作品を撮ろう」と思い、ニコンFM2を衝動買いした。その時、一緒に購入したのがAi NIKKOR 50mm f/1.8Sレンズだ。数あるニコンレンズからこれを選んだ理由は、コンパクトで明るいこと。それに加えて価格も手頃なためだ。9,000円から20,000円ほどのレンジでそこそこの物を購入できる。

ちなみにFM2とこのレンズを買って数年経つが、FM2の中には13枚だけ撮影したフィルムが今も眠っている…。もちろん何を撮ったか覚えてはいないし、そのフィルムが何枚撮りで、ISOがいくつかすらわからない。改めてデジタルの便利さを痛感する。

最近はD800やD800Eを使って撮影しているが、D800Eはその解像力のすごさから、レンズは最新の24-70mmや70-200mmなど重いものばかりになり、スナップに持って行く気を失っていた。そんな折、保管庫にこのパンケーキレンズを見つけ、装着してみたというわけだ。このレンズはAi-Sレンズなので直接D800Eに取り付けられるうえ、レンズ設定さえ行っていれば、カメラの絞り設定も絞りリングと連動する。

絞りリングの動きは、残念ながらチープで「カチカチ」とプラスチックらしい音がして、品のあるライカレンズとは比べ物にならないが、価格が価格なので不満はない。写りは30年前のレンズということを考慮すれば悪くないレベルだろう。絞り開放からでもピントさえしっかり合っていれば、ディテールまでしっかり写っている。さすがニコンクオリティ。手頃な“梅レンズ”でも手抜きはないようだ。

とはいえ、レンズを選ぶD800Eの性能を最高に引き出すことは難しいわけで、濃いめのビネッティング(周辺光量の低下)やレンズ周辺に見られる収差などの粗は多々ある。しかし、これは筆者の好み。むしろ、主被写体を際立たせてくれ、写真全体も落ち着いたトーンになる。久々に手頃な良いレンズに会えた気がする。



日暮れの月島を散策中に見つけた、味のある自転車を撮影。ビネッティングの影響で周辺は暗いが、それが味になり自転車を際立たせている。ピント位置も非常にシャープだ。(ニコンD800E  f1.8  1/125秒  ISO400  WB: 曇天)


マグロ屋さんの前でお留守番をする猫がかわいかったのでスナップ。フォーカスエイドが機能するため、ピント合わせも容易。3,000万画素超えのスナップは難しいが、このレンズであればピントの山は掴みやすい。(ニコンD800E  f1.8  1/50秒  ISO800  WB:  曇天)


絞り開放でもボケは美しく線も細め。暖色気味のレンズのため日かげなど色温度の低い場所でも暖かみのある写真を撮影できる。(ニコンD800E  f1.8  1/50秒  ISO500  WB: 曇天)


上田晃司のここがたまりませんっ!

カメラとレンズの絞り値を連動させるには、D800Eにあるセットアップメニューの「レンズ情報手動設定」を選択する。焦点距離と開放F値を設定するだけで、絞りリングを回すとF値の数値が連動するようになる。30年前のレンズでも連動するのはさすがニコン。



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価格:1,575円(税込)
著者:上田晃司


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「手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。
時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる“奇跡”を見せる」本書では上田晃司氏が魅了された全26種のレンズを軸に、その入手方法やカメラとの組み合わせ、レンズが描いた描写を大きく取り上げ、オールドレンズの魅力を余すところなく紹介。
上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記