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私の眼、ワタシの視角〜写真家が選ぶ焦点距離別・単焦点レンズ〜

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私の眼、ワタシの視角〜写真家が選ぶ焦点距離別・単焦点レンズ〜
写真家が自らの”眼”として選ぶ焦点距離と、その単焦点レンズを語る
公開日:2016/07/21

10mmという未知との遭遇

text & photo澤村徹

Voigtlander
Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical



 写真で作品づくりをするとき、いつも気にかけていることがある。それは、誰も見たことのない写真を撮る、ということだ。作品たるものオリジナリティーの塊なのだから、未曾有のイメージであるべきだろう。そうしたものが実際に撮れるかどうかはさておき、心構えとしてチャレンジは忘れたくない。では、未曾有のイメージはどうやってこしらえるのか。誰も見たことのない被写体を探す、自分だけの特殊な手法で写真を撮る、めずらしい撮影機材を使う、などなど、色々なアプローチが考えられる。そうした中、アドバンテージのある撮影ツールとして愛用しているのが、超広角レンズである。

本レンズはEマウントとライカMマウントがあり、写真のレンズはEマウント用だ。すでに発売済みで税別155,000円だ。

 今年の5月、フォクトレンダーからソニーEマウント用のヘリアーハイパーワイド10ミリF5.6アスフェリカルが発売になり、早速手に入れた。魚眼レンズを除くと、35ミリフィルム判10ミリは世界最広角のレンズとなる。まさに未曾有のパースペクティブを携えたレンズであり、人とちがう写真を撮りたいとき、強力な武器になる。実のところ、筆者は以前からウルトラワイドヘリアー12ミリF5.6アスフェリカル(初代のライカLマウント)を愛用していた。それを上回る広角レンズが出たのだから、めずらしい機材好きとしては黙っていられない。一線を画した写真を狙うとき、新境地を切り開くレンズは最強のパートナーだ。
 さて、ヘリアーハイパーワイド10ミリF5.6アスフェリカルの画角は130°で、そのパースペクティブはとにかく突出している。しかしながら、カメラ仲間とこのレンズの話をすると、「自分には使いこなせないから」と言って尻込みする人が少なくない。また、「要は湾曲してない魚眼だよね」という言い方もよく耳にする。どちらも未知のものと接したときの、ある種典型的な反応だ。
 自分には使いこなせないという言い方は、謙虚な響きがあるものの、自分とは無関係なものだと拒絶している姿だ。湾曲しない魚眼という捉え方も、一見するともっともらしいが、所詮は机上の空論に過ぎない。そもそも、見たことのない視野を手近な例に置き換えたところで、そのレンズの本質には近づけない。人は往々にして、未知のものと接したとき、そこから目をそらしてしまう。先んじてヘリアーハイパーワイドを使った一写真家として言いたい。怖がることはない。まずは未曾有の画角を無心に楽しもうではないか。


レンズフードが直付けされている。フィルター枠はなく、フィルター装着はできない。キャップは金属製のカブセ式が付属する。

絞りリング直下のリングを黄色いマークにセットすると、絞りリングがクリックレスになる。ムービー撮影で重宝する機能だ。

Eマウント用は電子接点を搭載し、絞り値がEXIFに反映される。また、ボディ側のレンズ補正機能も適用できる。

 130°という画角は、足下から空まで余裕でカバーする。上下左右、全方向から要素を取り込むと、10ミリという超広角の凄みを堪能しやすい。メインの被写体を中央に置いて周辺に要素をたっぷりと入れ込むと、10ミリならではの広い画角を楽しめる。
 一方、パースペクティブの付き方はとにかく強烈だ。これは本レンズならではの描写だが、煽りすぎはかえって興醒めとなる。カメラの電子水準器を積極的に使い、パースペクティブをハンドリングするという意識が大切になるだろう。
 前述の通り、筆者は初代ウルトラワイドヘリアーからこのヘリアーハイパーワイドに乗り換えた。この乗り換えの決め手となったのが、本レンズのデジタル対応である。初代ウルトラワイドヘリアーをフルサイズのα7シリーズやデジタルM型ライカで使うと、周辺部の色かぶりが顕著だった。RAW現像で修正することも可能だが、一枚ずつ直していくのはけっこうな手間だ。その点、CP+2016で発表された超広角トリオ、ヘリアーハイパーワイド10ミリF5.6アスフェリカル、ウルトラワイドヘリアー12ミリF5.6アスフェリカルIII、スーパーワイドヘリアー15ミリF4.5アスフェリカルIIIの3本は、どれも完全デジタル対応している。周辺部の色かぶり、像の流れはなく、しかもEマウント用は電子接点を搭載し、ボディ側のレンズ補正機能も動作可能だ。ヘリアーハイパーワイド10ミリF5.6アスフェリカルは周辺光量落ちがかなり大きいのだが、レンズ補正を有効にしておくとだいぶ周辺が明るくなる。また、Eマウント用とライカMマウント用、それぞれのボディに最適化が施されていると言う。ショートフランジバックの超広角レンズを、パーフェクトな画質で堪能できるわけだ。
 ヘリアーハイパーワイド10ミリF5.6アスフェリカルを、画角、視野、という側面から捉えると、とても難しいレンズに思えるだろう。たしかに130°という画角を使いこなすにはそれ相応のアイディアが必要だ。ならば、情報量の多い写真が撮れるレンズと考えてみてはどうだろう。画角ではなく、情報量という捉え方だ。超広角という画角主体のカテゴリーを超え、写真表現に新鮮な切り口を与えてくれるのではないだろうか。



●作例
α7II + Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical
絞り優先AE F8 1/500秒 ISO100 AWB RAW 
レンズ補正をオフにした状態でも、歪曲収差がほぼ感じられない。直線を安心して配置できる。

α7II + Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical
絞り優先AE F8 1/800秒 ISO100 AWB RAW
全方向から何らかの被写体が写り込むように構図を練ってみた。こういう写真はこのレンズならではだ。

α7II + Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical
絞り優先AE F8 1/400秒 ISO100 AWB RAW
ボディの電子水準器で水平垂直を出して撮影した。パースが大人しいと、10ミリとは言え思いの外、普通の見え方だ。

α7RII + Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical
絞り優先AE F8 1/160秒 ISO100 AWB RAW
中央に高層アパートメントを捉え、周辺から近隣のアパートメントが写り込む様を捉える。

α7RII + Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical
絞り優先AE F8 1/80秒 ISO100 AWB RAW
周辺光量落ちはかなり大きい。α7シリーズのレンズ補正で補正することも可能だが、そのまま作画を活かすのも一興だ。

α7RII + Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical
絞り優先AE F7.1 1/100秒 ISO100 AWB RAW
Lightroomで明瞭度を強めにかけて仕上げた。画面内の要素が多いので、ローカルコントラストやHDRなど、ディテールを際立たせる画像処理と相性が良い。


<メーカーサイト>

コシナ
Voigtlander Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical Eマウント
http://www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander/e-mount/e-10mm/index.html

Voigtlander Heliar-Hyper Wide 10mm F5.6 Aspherical VMマウント
http://www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander/vm-mount/vm-10mm/index.html


<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション



オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド



ソニーα7 シリーズではじめるオールドレンズライフ
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  2016/05/26
45mm Love!!