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アジアンMFレンズここだけの話

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アジアンMFレンズここだけの話
中国、台湾、香港などのレンズブランドが、いま実にアグレッシブだ。値段がリーズナブルというのは当然として、大口径、正統派高画質、クセ玉、付加機能重視、はたまた懐かしの名レンズを復刻したものまで現れた。さながらおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさである。レンズマニアならこの新たなカテゴリー、アジアンMFレンズを見逃す手はあるまい。そんな百花繚乱のアジアンMFレンズを数多く使い倒した澤村徹が、撮影のエピソードとレンズのフィーリングを語る。
公開日:2024/04/15

第3回 LIGHT LENS LAB M Noctilucent 50mm f/1.2 ASPH.ミイラ取りは率先してミイラになる

Photo & Text :澤村徹

1966年に登場したNoctilux 50mmF1.2を忠実に再現したのが周ノクチだ。外観やレンズ構成だけでなく、手磨き非球面レンズやガラス材まで再現している。
 
<スペック>
価格:388,000円
ブランド:LIGHT LENS LAB
マウント:ライカMマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:4群6枚
フィルター径:49mm

昨今、動画サイトやSNSでカメラやレンズをレビューしている人をよく見かける。彼らはいかほどの覚悟をもってレビューしているのだろうか。ここで言う覚悟とは、ミイラ取りがミイラになる覚悟のことだ。

昨年の11月半ば、周ノクチことLIGHT LENS LAB M Noctilucent 50mm f/1.2 ASPH.の予約が国内代理店ではじまった。LIGHT LENS LABがノクチ第1世代の復刻を企画していることはだいぶ前から知っていたので、ついに来たかと興奮気味だ。

ただ、この時点ではまだ予約は入れない。

LIGHT LENS LABのレンズはどれも少数生産なので、カメラマスコミで仕事をしている僕がいの一番で予約を入れるのはどうかと思うのだ。アーリーアダプターがひとしきり予約を入れた後、それでも余裕があれば……と自分に言い聞かせる。「ふん、いい人ぶりやがって!」と物欲が反抗する。「一度ものを見てから考えようぜ」と荒ぶる物欲をなだめる。

そう、中古カメラ市で周ノクチの現物が展示されると情報をつかんだからだ。

仕事帰りに中古カメラ市の会場に寄る。ガラスケースに周ノクチが鎮座していた。店員にお願いして試写させてもらう。二三度シャッターを切る。ピントリングと絞りリングをグリグリする。ちょっと触った程度で何がわかるわけでもない。わかったらわかったで、即座に買いたくなるから困る。お店の中の人に機材貸し出しの相談をする。このタイミングなら「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」に周ノクチを載せられる。目玉記事になるのでぜひとも載せたい。日本国内にはこの一本しか入っていないという。それでも、中古カメラ市などの展示が終われば貸してもらえることになった。じっくり試用してから購入を検討できる。レビュワーの役得である。

そんな風に考えているときが僕にもありました……。

周ノクチの貸出品がなかなか届かない。触ってから考えればいい。そうとわかっていても気が急く。予約受付中というが、もう予約数に達しているのではないか。いまなら達する直前で駆け込みセーフ、みたいな。物欲の堂々巡りが止まらない。悶々とした日々をすごす。なにしろ周ノクチは三十万超えというアジアンMFレンズの中では破格の製品だ。オイソレとポチれるものではない。

でも、周八枚と周エルカンは私物購入済みで、LIGHT LENS LABの製品の良さは重々承知している。きっと周ノクチもすばらしい出来だろう。当時のガラスを再現し、手磨き非球面の手磨き工程すら再現したという。果たして悩む必要などあるのだろうか。なにしろ周ノクチは究極の復刻レンズだ。いわゆる約束された地ではなかろうか。どうせ買うなら早く手に入れてたくさん楽しんだほうがいい。

中古カメラ市から二週間、代理店の中の人にメールする。周ノクチの予約状況はどうですか。すでに完売ですか、それともまだ余裕がありますか? 返事が届く。大丈夫ですよ。ご予約お待ちしてます、と。お待ちされているのか。それなら仕方ない。

試用するまでもなく、予約を入れていた。

予約を入れた数日後、貸出品の周ノクチが届いた。実写したファーストインプレッションは、新品で買えるオールドレンズ、だ。初代ノクチと比べるまでもなく、個性あるレンズとして存在感を発揮していた。これはもう試用する前に予約して大正解。一日も早く私物の周ノクチで思いっ切り撮影したい。原稿料より遥かに高額なレンズを買ってご満悦なのだから、ライターの業の深さに呆れるばかりだ。



Leica M11 + LIGHT LENS LAB M Noctilucent 50mm f/1.2 ASPH.
絞り優先AE F1.2 1/400秒 ISO64 AWB RAW
ショーウィンドウのコートにピントを合わせる。ガラス越しの光景に前後のボケが複雑に重なり合い、不思議な見え方だ。ややフレアっぽく、オールドレンズ風のテイストだ。


Leica M11 + LIGHT LENS LAB M Noctilucent 50mm f/1.2 ASPH.
絞り優先AE F1.2 1/3200秒 ISO64 AWB RAW
新品で買えるオールドレンズと書いたが、順光ではしっかりした色味とコントラストを見せてくれる。後ボケにはほどよくクセがあり、個体差が大きいと言われる初代ノクチの写りを彷彿とさせる。


Leica M11 + LIGHT LENS LAB M Noctilucent 50mm f/1.2 ASPH.
絞り優先AE F1.2 1/2000秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW
逆光でフレアとゴーストを写し込む。ハイライトのパープルフリンジもそれなりに強い。オールドレンズファンにおなじみの諸収差を満喫でき、現行レンズでありながら1960年代のレンズがベースになっていると実感する。


Leica M11 + LIGHT LENS LAB M Noctilucent 50mm f/1.2 ASPH.
絞り優先AE F1.2 1/10000秒 ISO64 AWB RAW
後ボケを見ると、ぐるぐるしそうなところをグッと持ち堪えたような印象がある。クセ玉なのに暴れすぎない奥ゆかしさがいい。

<関連サイト>
焦点工房
LIGHT LENS LAB M Noctilucent 50mm f/1.2 ASPH.

https://www.stkb.jp/shopdetail/000000001940/


<関連書籍>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション

 

<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション



オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド



ソニーα7 シリーズではじめるオールドレンズライフ