オールドレンズ・ポートレート
公開日:2021/12/05
KONICAの6枚玉大口径レンズ Konica Hexanon 57mm F1.4 AR
Text & Photo上野由日路/モデル:めめ猫妖怪
レンズの構成は写りを左右する重要な要素だ。レンズ設計においてレンズ枚数を増やすとそれだけ補正できる収差が増える。しかしながら構成枚数の多いレンズが高性能レンズかというとそうとも言い切れない。感覚的な写りの良し悪しとなれば話はさらに複雑になる。
現在、価格が高騰しているAngenieux S21 50mm F1.5やLeicaのNoctilux 50mm F1.2は6枚玉を採用している。これは大口径レンズとしては非常に稀有な存在といえる。そしてそのどちらのレンズも魅力的な写りに定評がありファンも多い。あまり知られていないが国産レンズにも大口径の6枚玉がわずかながら存在している。
今回紹介するHexanon 57mm F1.4も6枚構成を採用しているレンズのひとつだ。このレンズが登場した1965年は、まだレンズの生産技術が発展途上だった。それゆえ各社が試行錯誤しながらあらゆるレンズ構成を模索していた。その中で6枚構成でF1.4という明るさに挑戦したレンズがこのヘキサノンだ。その後の時代に6枚玉のF1.4クラスのレンズが作られることはなかったことを考えると歴史に淘汰されたレンズ構成になるのだが、いま改めて見てみるとその写りは非常に魅力的であるといえる。 Konica Hexanon 57mm F1.4 AR
ヘキサノン 57mm F1.4のように6枚玉を採用するF1.4クラスの大口径レンズは少ない。スタンダードなのは7枚だ。これは割と最近まで続いている。例を挙げると現行のキヤノンEF 50mm F1.4は7枚構成を採用している(2021年11月現在)。
このように世に存在するF1.4クラスのレンズの大多数は7枚玉を採用している。これは性能とコストと生産技術のバランスが取れているからだと思う。しかし現代においてはデジタルの高画素化に伴い徐々に多枚数化が進んでいる。最新のシグマアートラインの50mm F1.4では8群13枚を採用しているしキヤノンでもRF 50mm F1.2L USMでは9群15枚という構成になっている。
話を元に戻すが、今回紹介するヘキサノンの以前コニカは7枚構成を採用していた。以前このシリーズで取り上げた1960年に登場したヘキサノン 52mm F1.4だ。なぜ今回のレンズより5年前に発売されたレンズが7枚玉で新しいレンズに6枚玉を採用したのか、そこは今となっては分からない。しかし何らかの理由があって採用したのであろう。結果として貴重なF1.4クラスの6枚玉が生まれたのはうれしいことだ。
ダブルガウスにおいて6枚構成と言う事は必然的に弱点を抱えることになる。そしてその弱点とどう対峙するか設計者の意図がレンズに現れる。そこが6枚玉の大口径レンズの魅力であり面白さだ。先述のAngenieux S21 50mm F1.5も6枚玉ゆえ開放時にフレアを回避できない。S21ではそのフレアを受け入れ滲みとして表現に昇華した。それがAngenieuxらしい淡いベールを纏ったような優美な写りにつながっている。
ヘキサノン 57mm F1.4では2群目を分割した5群6枚構成となっている。これはシュナイダーのクセノンやフォクトレンダーのウルトロンと同じ構成で空気間隔をあえて作り屈折する面を増やすことで収差補正できる自由度を増やしたのだ。コーティング技術の進歩により屈折面を増やしても反射によるコントラスト低下を気にする必要が減ったためこのような構成を取ることが可能になった。この方法は初代ズミクロンでも採用され「空気レンズ」と呼ばれ有名になった。早速このレンズの描写を見ていきたい。
1/125秒 ISO100 WB:マニュアル
日陰での描写は普通に安定していて嫌な部分はない。1/250秒 ISO250 WB:マニュアル
ポートレートの定番、斜逆光のシチュエーションでは光のベールを纏った絶妙なやわらかさを持っている。1/320秒 ISO400 WB:マニュアル
平面性もまずまず。使い勝手が非常に良いレンズだ。1/250秒 ISO800 WB:マニュアル
純光時のボケは優美で美しい印象。諧調含め写りはあっさりしている。1/500秒 ISO200 WB:マニュアル
完全逆光では光の質感を感じることが出来る。素直な描写が6枚玉の醍醐味だ1/1600秒 ISO320 WB:マニュアル
上手くハレーションをコントロールすれば極上の描写と空気感を得ることが出来る。ヘキサノン 57mm F1.4の写りを一言で表すと「素直」だ。それはF1.4という大口径レンズでありながら6枚玉という構成を取っていることと密接に関係していると思う。とはいえ1965年の技術は取り込んでいるので、撮影者が光をコントロールすることでしっかりした描写を得ることが出来る。いわゆる「じゃじゃ馬」レンズではない。その場のシチュエーションをありのままに切り取ることもできるし、撮影者の意図通りにドラマチックに演出することもできる。そんな撮影者の腕前を試すレンズがこのレンズなのだと思う。フィルム時代はシチュエーションの選択ミスが即失敗につながった時代であった。そんな時代においてはヘキサノンのようなリスクを抱えたレンズは当然淘汰される対象だったと思う。しかしながらミラーレスになり背面液晶で撮影結果を確認できる現在においては、素直な写りを見せてくれるヘキサノンのようなレンズはとてもありがたい存在になっている。コンテンツ記事関連商品
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