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コロナの街角・2020-2021

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コロナの街角・2020-2021
公開日:2021/12/14

【後編】街の光がやわらかいうちにもうひと回り

text & photo 丹野清志
ショート連載「コロナの街角・2020-2021」前編はこちら


全国的に新型コロナ感染者が少なくなってきたが、全国民マスク姿という奇妙な街風景は変わらない。マスクの街中を歩いていると、“不要不急”のぶらぶら歩きなんてことを続けていていいんだろうかと思ったりする。でも、小春日和で腰の痛みもないという日はなんだかいい写真の出会いがありそうで、迷うことなく街へ出ていくのだ。気持ちがゆったりしている時は街の歩き方に余裕が出てくるもので、被写体として選んだ建物の周辺をしばらくぶらぶらひと回りしてから写していたりする。四つ角で、さてどちらへ行こうかの選択もさらりと決めている。街を歩いていて考えることといったら昼食時に何を食べようかなということぐらいだが、ソバを食べたいと思ってもソバ屋があるとは限らない。小さな街では少し中心地をはずれると飲食店がないことのほうが多く、やっと出会った店には閉店の張り紙があったりするので食事はなりゆきだ。写真を写すこともなりゆきみたいなものだが、シャッターボタンを押すという行為は視覚で考える瞬間だから、のらりくらりと歩いていてもシャッターきるたびにいろんなことを考えている。



街の光の中に身を置いて
晩秋から冬は、写真時間が短い。午後3時過ぎにはすっかり街並みが陰の中に隠れるようになってしまう。夏であれば1日フルに歩き回っていられるのに、明るい街を歩けるのは昼をはさんで4、5時間ぐらいだ。でも、病み上がりという状態の今の私にはちょうどいい街歩き時間だ。コロナ自粛をきっかけに改めて見つめなおしている「街」は、何事もなく光がしずかに流れていくだけだから、その場に身を置く私に気負いなどはなく、どこへ出かけようとつねに平常心でいる。街で撮る時はいかに街に溶け込めるかがたいせつなことだ、と昔ある人が言っていた。街の人、としてふつうにそこにいることができれば、街のにおいを感じ、街の貌を見ることができる。さて、この新しい街への旅はいつまで続くのか。とりあえず「街角100」というタイトルをつけておこうかな。







某日
初めて歩く街で駅などに置いてある絵地図などを見てこのあたりへ行ってみようと決めても、途中から反対の方向へそれていたりする。だから、「あれ!?ここは歩いてるよ、あの店はさっき写したもの」というようなことになる。でも、その時間のズレが新しい刺激をくれるのだ。場所は同じなのに、違う街があらわれる。形がおもしろいと思っただけで写していた建物の光と影が、何かを主張している。







某日
各地で空き家が増えて問題になっている。どこの街を歩いても目に付く。もう侘しい街景は写したくないなあと思いながら、蔦がからまった家などを見ているとシャッターを切っている。街角の植物は美しい、とずっと思っている。商店街の中の空き地に茂る雑草群などはいきいきしている。雑草は強い植物という印象があるが、稲垣洋氏の著書「雑草はなぜそこに生えているのか」(筑摩書房)を読むと、雑草は『多くの植物が生える森の中には生えることができない』弱い植物なのだという。







某日
雲一つなく、快晴。北日本は雪が降っているらしいのに、汗がにじんでくるのだった。2時間ほど街をうろついて出会った人はシルバーカーを押して歩くおばあさん一人で、マスクの顔を俯くようにしているので声をかけるのをやめた。人と向き合って声を発したのは、昼過ぎてやっと見つけた食堂で鯖定食を注文した時だけだった。さて、デルタ株に続いてこんどは新変異株のオミクロン株だって。マスクから解放される日はいつになるのだろう。


富士フイルム X100F



丹野 清志(たんの・きよし)

1944年生まれ。東京写真短期大学卒。写真家。エッセイスト。1960年代より日本列島各地へ旅を続け、雑誌、単行本、写真集で発表している。写真展「死に絶える都市」「炭鉱(ヤマ)へのまなざし常磐炭鉱と美術」展参加「地方都市」「1963炭鉱住宅」「東京1969-1990」「1963年夏小野田炭鉱」「1983余目の四季」。

<主な写真集、著書>
「村の記憶」「ササニシキヤング」「カラシの木」「日本列島ひと紀行」(技術と人間)
「おれたちのカントリーライフ」(草風館)
「路地の向こうに」「1969-1993東京・日本」(ナツメ社)
「農村から」(創森社)
「日本列島写真旅」(ラトルズ)
「1963炭鉱住宅」「1978庄内平野」(グラフィカ)
「五感で味わう野菜」「伝統野菜で旬を食べる」(毎日新聞社)
「海風が良い野菜を育てる」(彩流社)
「海の記憶 70年代、日本の海」(緑風出版)
「リンゴを食べる教科書」(ナツメ社)など。

写真関係書
「気ままに、デジタルモノクロ写真入門」「シャッターチャンスはほろ酔い気分」「散歩写真入門」(ナツメ社)など多数。

著書(玄光社)

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