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ミラーレス機で紡ぐオールドレンズ・ストーリー

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ミラーレス機で紡ぐオールドレンズ・ストーリー
なぜ、オールドレンズに惹かれるのだろう。
描写性能を求めるのであれば、先進技術を駆使した現行レンズに勝るものはない。そうとわかっていても、オールドレンズに魅せられてしまう。レトロに撮れるから。古今東西の名レンズがそろっているから。
どれだけ理由を並べても、その魅力の核心にはたどり着けない。
なぜならオールドレンズは、主観抜きに語れないからだ。
ファーストショットの感動、フィルムカメラへの思い、傑作をものにした感触。
そのレンズと時間をともにした者だけが抱く、思い入れの数々。
それこそが、いまあえてオールドレンズを使う真の理由を物語る。
写真家5名が紡ぐ、オールドレンズ・ストーリーをご覧あれ。
公開日:2012/11/12

子どもの眼差しに戻る朝の寄り道 Olympus PEN E-P2 + DR Summicron 50mmF2

photo & text 森谷 修
背景の強い日差しを心配したものの、ズミクロンとE-P2により白飛び黒潰れのないデータが得られた。
Olympus PEN E-P2+DR Summicron 50mmF2 f5.6 1/1000秒 ISO200

日常の中で気付く瞬間的な感動

「コラー、いつまでパジャマ着てるんだ。早くしなさーい! ああ、どうしてこうも朝は慌ただしいのだ!」
僕は叫ぶ。そう、誰だって朝は慌ただしい。世界の常識なのだ。
「自分のせいでしょ!」と、我が娘。現在5歳。鼻をフンと鳴らす。見れば、のんびりトーストにイチゴジャムをぬっていやがる。生意気だ。早よ喰え!
娘の言うことは間違っていない。慌ただしさの原因は、全部自分なのだ。現在娘が通う保育園は、自転車をかっ飛ばせばせいぜい3分〜5分の距離。なのに僕は、30分以上かけて登園している。ちょっと遠征すれば1時間超なんてことも。大人が”寄り道”したいために慌ただしい訳だから、付きあわされる身になれば鼻をフンと鳴らしたくなるのも仕方がない。頷ける話だ。


葉の質感と水滴。肉眼で見た輝きが再現できた。WBはオート。色もきれいに仕上がったと思う。
Olympus PEN E-P2+DR Summicron 50mmF2 f2 1/400秒 ISO200

この早朝”寄り道”は、今年でかれこれ12年になる。今度中学に入学する長女が赤ちゃんの時から始めて、たまにさぼりながら、たまに遠出しすぎることもありながら、何となく続いている日課だ。
春には土手の土筆を探し、夏は水辺へ遠征、秋に落ち葉集めをし、冬は霜柱をザックザックと踏みつぶす。新幹線を眺めに陸橋を駆け上がり、帰りは坂道を急降下。凍える日には、白い息を吐き、ゴジラだと笑いあう。
幸せなことだなぁ。特に頭でっかちになってしまった僕たち大人は、朝っぱらから笑えないものなのだよ。感動できないものなのだよ。名もなき花の可憐さに、空の青さに、雨上がりの美しさに、心が動かないものなのだよ。

こうした心の動きは、実に”瞬間”的なものだと思う。ハッとした、ドキッとした、グッときた……そういう類の感動に近い。理性を介在させることのない直感的な感情。幼児はこの種の能力に長けている。子供と共に歩き、同じ視線を持つことが重要なのだ。


川面の景色。意図的に色温度を調整し、冬の早朝特有の凛とした空気を再現した。
Olympus PEN E-P2+DR Summicron 50mmF2 f2 1/1250秒 ISO200

自分の直感に素直に古いライカレンズを向ける

僕はその”瞬間”を大事に撮り始めた。朝の寄り道で、子供の眼差しを見習って。何度かのトライの結果、古いライカレンズが一番マッチすることに気がついた。最新デジタル機材との組み合わせではRAW現像の処理によって、銀塩ならば現像処理をコントロールすることによって、より生理的にしっくり来る写真を生み出すことが可能となった。


こういった被写体にDRズミクロンは比類なき強さを示してくれる。見事だ。
Olympus PEN E-P2+DR Summicron 50mmF2 f2 1/400秒 ISO200

こうした古いレンズはいくつも所有していて、たいていライカM9に取り付けて撮影しているのだが、DRズミクロン50ミリF2の様にM9使用不可レンズの場合、オリンパスE-P2などのマイクロフォーサイズカメラの出番となる。

DRズミクロンは、距離計連動カメラの欠点である接写を、様々な工夫で解決したレンズである。高度に精密な調整を必要とするため、正確な焦点距離のレンズを組み合わせていると言われている。ズミクロン特有の硬派な中にも優しさが光る一級の描写力と、撮影最短距離が短い利点が合わさった鬼に金棒レンズと言えよう。

非常に光線状況が悪い中での撮影で感度も高め。E-P2の懐の深さを感じる1枚。 Olympus PEN E-P2+DR Summicron 50mmF2 f2 1/400秒 ISO200

強い陽射しの日よりも薄曇りの方が成績が良いことから、雨上がりの朝はたいていこのコンビをカバンに入れる。真面目なレンズとこれまた真面目なオリンパスのカメラ、僕も少々襟を正し、真面目に”瞬間”に向き合う。

「もう少しTV観たかったのにー。」相変わらずブーブーと言いながらも、いざ土手に来ると走り出す。後を追いながら、心が動いた被写体にカメラを向けた。水たまりは曇り空を反射して輝き、草に張り付く水滴は水晶のごとく美しさをたたえていた。グランドでは高校野球部の練習ボールが静かにその存在を主張し、木のベンチは雨に濡れて風情が増して見えた。

何でもない日常の、ちょっとした刹那。少しでも理性を働かせ何かを表現しようなどと思ったら、するりと逃げてしまう大事なもの。
綺麗な蝶を捕まえるように、僕は被写体にそっと近づき、ピントリングを目測であわせ、瞬時に撮影を試みる。
「父ちゃん、撮れたー?」走り寄る娘に背面モニターを見せる。ちょっとだけ眺めて「うん。いいね!」だって。
相変わらず生意気なヤツだ。


Olympus E-P2
DR Summicron50mmF2
DRズミクロン50mmF2はレンジファインダーカメラの欠点を補う「近接」レンズ。最短撮影距離48cmを誇る。オリンパスEP-2の懐の深さと相性抜群だ。

森谷 修(モリヤ・オサム)

写真家。東北新社CM撮影部、写真家への丁稚奉公を経て独立。古い機材への造詣が深く、最新デジタルカメラとの組み合わせに新たな可能性を見いだす。