NEXT STAGE
公開日:2015/06/01
フォトグラファー 篠田優/Shinoda Yu
CAMERA fan編集部
図書館で出会った写真集が導いた写真家への道
2013年の塩竈フォトフェスティバルで写真賞大賞を受賞した篠田優さん。
受賞作品を含む、初の写真集「Medium」が2015年6月20日に発売されます。
写真家としての人生を歩み始めた篠田さんに、お話を伺いました。『写ルンですなどを使って、写真を撮る機会はありましたが、写真家を目指していたわけではありませんでした。大学では、経済を専攻していて、写真の勉強をしていたわけではなかったんです。学生時代は、本が好きで図書館に行く機会が多く、よく座る席のそばの棚にあった写真集をたまたま手に取って感動したのがきっかけで、写真に興味がわきました。北井一夫さんの「村へ」という写真集や、エドワード・ウェストンの写真集もよく見ていましたね。
これまで見てきた写真とは“質感”が違っていて、写真というのは“モノ”でもあるということに感動したんです。それからは写真展などにも足を運ぶようになりました。大学を卒業するころには、写真を勉強したいという気持ちが大きくなり、東京工芸大学に編入したんです。』シンプルで原点に近いメカニズムの大判カメラに惹かれる
篠田さんは1986年生まれの現在29歳。
フィルムとデジタルの両方を自由に行き来しながら撮影しています。
『高校生のころ、初めてフィルムの一眼レフで撮影したときは、失敗して全然写っていませんでした。それからしばらくして、祖父の遺品だったキヤノンA-1をもらってきたんです。写真集を見るようになってから憧れていたモノクロを撮ろうと、モノクロフィルムを詰めて撮影しましたね。現像後はデータ化してもらっていました。
最初に買ったカメラは、キヤノン EOS Kiss デジタルですね。いま、作品の撮影に使用しているメイン機材は、トヨフィールド45A2Lです。ウェストンのテクスチャーに憧れもあって。大学でも、絞りやシャッターなどベーシックなことを大判で学びました。レンズはニッコール300mm、135mmがメインです。中古でも数が多いためか、状態の良いものがありますし、実用的にいいんです。フィルムは富士フイルムのPRO 160 NSです。
大判カメラはシンプルで暗い部屋に近い、カメラオブスキュラのような、カメラの原点に近いメカニズムで、自分の撮る作品に合っているのではないかと思っています。もちろん、写りも高精細で解像度ではなく豊かな階調が魅力です。カメラそのものの“モノ”としての魅力も大きいですね。機能美という言葉がありますが、まさにその通りです。』
写真を撮ることだけでなく、カメラのメカニズムも好きだという篠田さんの相棒「トヨフィールド45A2L」はまるで新品のようにきれいな状態でした。いつもきちんと磨いているそうで、カメラへの愛情を感じます。受賞できてホッとした塩竈フォトフェスティバル
『卒業制作として1年かけて、納得いくまで作品を作ろうと4×5を使って撮影しました。それを、何かコンテストに出してみようと思ったんです。塩竈フォトフェスティバルを選んだのは、同級生や先輩が出していたこともあって、それがきっかけですね。まずはブックで一次審査があり、そこを通過するとレビューを受けることができます。そこからさらに二次審査に進みます。レビューは20分間あり、3名のレビュアーの方とお話ししました。比較的しっかりと写真について話しをできたので、それだけでも刺激がありましたが、大賞を受賞できて、ホッとしたという気持ちが大きかったです。自分の写真はこれまでの受賞者と傾向が違う気もしていたので……。塩竈フォトフェスティバル 入賞作品
Mamiya7II + MamiyaN80mm F4L FUJIFILM Pro400
これらの作品は、塩竈フォトフェスティバルに提出された写真で、まもなく発売となる写真集「Medium」に掲載される予定。TOYO FIELD45AIIL + NIKKOR W135mm F5.6S KodakPORTRA160
TOYO FIELD45AIIL + NIKKOR W135mm F5.6S FUJIFILM Pro160NS
『大賞を受賞後、今日まで、ずっと写真集の制作に集中してきました。早く作って早く出すよりも、時間がかかっても納得のいくものを作りたかったんです。何度も何度も撮影して、厳密に、きびしくやらなければ成立しなかった作品です。不特定多数の方々に見てもらうという意味で、見る側の人に想像の余地があるものを心がけて作りました。塩竈フォトフェスティバル以降、見る人に余地があるという部分にフォーカスして撮ってきた気がしますね。自分の写真を見た人が人生や人の存在など、何か外のことを考えるきっかけに、見る人の思考の架け橋のような存在になればいいなと思っているんです。』編集中の写真集「Medium」の色校正
『“きれい”とか“すごい”とか、“何かある”と感じる、シンプルな動機からシャッターを切ります。そうして繰り返し撮影し、あとで撮ったものを見返し、撮影時に感じていなかった意味が見出せるものをセレクトします。そこにある“共通するなにか”が見てくれる人が考える余地にも繋がっていくと思うんです。』『北井一夫さんの作品にしても、時代もまったく違うのに、何かを感じる。状況はまったく知り得ないのに、そこに魅力を感じ、写真を通じて違う世界に触れることができますよね。そういう存在に自分の写真がなればいいなと思います。』
篠田さんの語り口は淡々としているけれど、見ているところがはっきりとしていてブレがなく、芯の強さが感じられます。
写真家としてスタートを切った篠田さん、今後について、どんな風に考えているのかを聞いてみました。作品撮りとは違った緊張感のある“仕事”としての撮影
Canon 5D MarkIII + 24-105mmF4 DG OS HSM Art
アクセサリーの商品撮影
Canon 5D MarkIII + EF100mmF2.8L Macro
『写真を撮ることそのものが好きなので、作品を撮ることも、依頼を頂いて撮る写真も、どちらも魅力を感じます。商業的な写真撮影によってテクニックが上がれば、作品に還元できると思いますし、作品撮りとまったく一緒ではないけれど、自分自身としては撮影そのものに大きな違いはないんです。』 『仕事では、キヤノン EOS 5D MarkIIIを使っています。何度かアシスタントをさせていただいた赤城耕一さんに勧められて購入した、シグマの50mm F1.4 DG HSMは気に入っています。実は、初代EOS 5Dは発売当時に購入して使ったのですが、その後作品などを撮るために、デジタルから離れていたんです。仕事を始めるにあたって、自分に縁のあるカメラにしようとEOS 5D MarkIIIを選びました。真っ黒なカメラが好きなので、このスタイルも気に入っています。』 キヤノン EOS 5D MarkIII
シグマ 50mm F1.4 DG HSM
ハッセルブラッド501C
『最近、ハッセルブラッド501Cとデジタルバック(Leaf AptusII-5)を手に入れたんです。少し古いですが、これにしか出せない“デジタルのよさ”というのもあると思います。感度も低いので、三脚にすえて、しっかり撮るということになりますが、4×5に近い感覚で違和感はありません。ハッセルの優美なデザインもいいですよね。』Leaf AptusII-5
<篠田優・作品集>
TOYO FIELD45AIIL + NIKKOR W135mm F5.6S Kodak PORTRA160
TOYO FIELD45AIIL + NIKKOR W135mm F5.6S Kodak PORTRA160
Hasselblad501C+ PlanarCF80mm F2.8 + Leaf Aptus II-5
信頼できるカメラを長く使っていきたい
『カメラそのものも好きですが、機材をたくさん買うというよりは、ひとつ信頼できるものを選んで、使い続けていく方かなと思います。その方が、自分のなかの変化が分かりやすい気がするんです。』
仕事としての撮影も行っていくなかで、作品へのフィードバックも多いのではないかと語る篠田さん。これからの作品にも期待したいですね。
まずは初の写真集「Medium」をぜひご覧下さい。
現在決まっている写真集「Medium」の販売先は、塩竈フォトフェスティバルウェブサイト。今後、販売先が決まり次第篠田さんのウェブサイトで公開されます。
発行元/販売サイト:
塩竈フォトフェスティバル
http://sgma.jp/
篠田優ウェブサイト
http://www.shinodayu.com/
<2015年8月18日 追記>
篠田優さんの写真集「Medium」の発売が開始しました。
以下の販売店、サイトから購入が可能です。
【購入方法】
IMA CONCEPT STORE 店頭にて販売
東京都港区六本木5-17-1 AXISビル3F
http://imaconceptstore.jp
塩竈フォトフェスティバル ウェブサイトからEメールで購入の申込み
http://sgma.jp/2016/photobook_medium.php
「東京工芸大学」
今回の取材は、篠田優さんの出身校である東京工芸大学の協力のもと行なった。
東京工芸大学は、1923年に小西六写真工業(現コニカミノルタ)が、高い技術を持ち写真文化けん引する写真家を育成するために、小西写真専門学校として設立した専門学校で、その後、東京写真大学となり、現在は改称して、東京工芸大学となっている。芸術学部に写真学科を持つ日本の代表的な写真大学。卒業生として、細江英公、立木義浩、丹野清志、赤城耕一、小林紀晴、大和田良など多くの著名な写真家を輩出している。(敬称略) 篠田さんが学生時代に作品を制作したカラー暗室写真学科には、モノクロ、カラー暗室や、スタジオなど、第一線で活躍するプロを育成するための設備が充実している。東京工芸大学
〒164-0012 東京都中野区本町2丁目9−5
ウェブサイト http://www.t-kougei.ac.jp/
interview & text:笠井里香
photo:CAMERA fan編集部