TOP > コンテンツ一覧 >

Cinemachic Eyes

20
Cinemachic Eyes
公開日:2015/01/26

バブル・ボケの輝き Vol.3 〜Arriflex Cine-Xenon 25mm f1.4 / Steinheil Auto-Quinon 55mm F1.9 / Prakticar50mmF2.4 / PENTACON29mmF2.8 / Meyer Optik Trioplan50mmF2.9

text & photo 上野由日路
前回からの続きになるが、レンズの得意な領域=『スイートスポット』は、それぞれのレンズにおいて、存在する場所も形もまちまちである。そしてレンズによっては1本のレンズでいくつもの『スイートスポット』を持ったレンズも存在する。今回もスイートスポットを持ち、独特の表現を創りだすレンズをご紹介する。


Arriflex Cine-Xenon 25mm f1.4



OLYMPUS PEN E-P3 1/320 f22 ISO200


OLYMPUS PEN E-P3 1/1600 f1.4 ISO200

Arriflex Cine-Xenon 25mm f1.4 の『スイートスポット』は開放付近の超近接〜近接にあるが、F22〜絞り全閉じの間にもある。太陽などの光源を画面に入れた状態でF22から全閉じに向けて絞っていくと光源から一気にゴーストが出る瞬間がある。
ちなみに全閉じとはシネレンズ特有の機能で絞り羽が全部閉じることだ。映画撮影の際のフェードアウトなどに用いられたらしい。




Arriflex Cine-Xenon 25mm f1.4



Steinheil Auto-Quinon 55mm F1.9


OLYMPUS PEN E-P3 1/320 f1.9 ISO200

また前回紹介した Panchroなどのようにボケとシャープネスを両立するタイプとは対照的に『スイートスポット』で像が崩壊するタイプのレンズも存在する。Steinheil Auto-Quinon 55mm F1.9である。被写体が解け落ちていくような描写は写真というより絵画である。特にこの写真では補助ヘリコイドアダプターを用いてマクロ域で撮影している。レンズ設計時に想定していなかったマクロ域での描写にこのレンズの新しい一面があったわけである。



Steinheil Auto-Quinon 55mm F1.9


PENTACON Prakticar50mmF2.4


OLYMPUS PEN E-P3 1/320 f2.4 ISO200


OLYMPUS PEN E-P3 1/640 f2.4 ISO200

PENTACON Prakticar50mmF2.4やMeyer Optik Trioplan 100mmF2.8といったレンズは開放時に『スイートスポット』がありバブル状のボケを生じる。写真で見ていただくとわかるが、丸ボケの一番外側に薄い膜のような部分がありシャボン玉に似ていることから 『Babble Bokhe(バブル ボケ)』と、海外で呼ばれている。

バブルボケを作るにはやや工夫が必要だ。背景に小さめの光源を作ってあげることが必須となる。それはたとえば木漏れ日やイルミネーションや半逆光の水滴といったキラキラするものである。




PENTACON Prakticar50mmF2.4


PENTACON 29mm F2.8


OLYMPUS PEN E-P3 1/20 f2.8 ISO200

PENTACON 29mm F2.8のスイートスポットも近接〜1m位にある。
この写真はそのスイートスポットで背景に木漏れ日を持ってきて玉ボケを作った。このレンズは逆光時のゴーストも楽しめるレンズである。


 PENTACON 29mm F2.8


Meyer Optik Trioplan50mmF2.9

OLYMPUS PEN E-P3 1/400 f2.9 ISO200


OLYMPUS PEN E-P3 1/500 f2.9 ISO200



Trioplan50mmF2.9


シネレンズのスイートスポットが導く美しく個性的な描写


これら東ドイツのPENTACONやMeyer系レンズの特徴は国産レンズには見られない魅力的なボケと適度な解像感。そして何よりレンズの安さだ。Trioplan100mmこそ世界的人気で価格が高騰してしまったが、それ以外はだいたい数千円で買える。今回紹介したTrioplan50mmF2.9も、写りは100mmに近くバブルボケも楽しめるが価格は1/4以下である。PENTACON PRAKTICAR 50mm F2.4はなじみの薄いPrakticar BMマウントなので市場価格は安い。NOCTO製のPrakticaBM→LeicaLアダプターを使えばライカMヘリコイドアダプターの使用も可能なので近接時の『スイートスポット』での撮影が可能になる。

カメラがデジタルカメラになってから写真の仕上がりが撮影時にわかるようになった。これまで勘を頼りに偶然狙いだったハレーションやゴーストなども確実に出せるようになり、レンズの味として認識されつつある。レンズが秘めた一瞬のきらめきを注意深く探りながら被写体とも向きあう。その先に新しい表現がある気がする。

<プロフィール>


上野由日路(うえの よしひろ)
山口県出身 1976年生まれ。六本木スタジオを経て独立。オールドレンズポートレートカメラマンとしてレンズごとのテイストを生かした表現を得意とする。オールドレンズの魅力を発信するためにワークショップ『オールドレンズ写真学校』やイベント『オールドレンズフェス』を主宰している。主な著書に『オールドレンズ銘玉セレクション』(玄光社)、『オールドレンズ×美少女』(玄光社)、『オールドレンズで撮るポートレート写真の本』(ホビージャパン)がある。

シネレンズ+美少女 CINEMA LENS+CHICS
http://raylow331.wix.com/cinemachics

上野由日路
http://raylow331.wix.com/raylowworks#

 

<著書>


オールドレンズ銘玉セレクション