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Cinemachic Eyes

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Cinemachic Eyes
公開日:2014/09/12

Arriflex Cine-xenon 25mm f1.4 & 50mm f2

photo & text 上野 由日路

OLYMPUS PEN E-P3 + Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4
1/40 F1.4 ISO1600 モデル:はねゆり

僕がシネレンズに出会ったのは友人のレンズを探しに大森駅前の中古カメラショップに出かけたときだった。
それまでショップに通い詰めていたので一通りのレンズは目にしていたが、今まで見たことのないレンズがそこにはあった。独特なフォルム、ピントリングについた羽。お店の人はそのレンズのことを「シネレンズですよ」と教えてくれた。
良かったらカメラにつけてみてみます?と Panasonic GF-1に装着してもらい、背面ディスプレイを覗くと、その映像に息をのんだ。普通の景色がこんな存在感を持つなんて・・。今まで見たことのない世界がそこにはあった。その瞬間、シネレンズの世界に魅了されてしまった。
その後、仕事以外の作品制作のためにシネレンズを使っていたが、その独特の表現に惚れ込んでしまってからは、本業のモデル撮影の現場でもシネレンズを使うようになった。最近ではクライアントからシネレンズでの撮影を指定されることもある。
今ではシネレンズは、僕の世界観を表現するのに欠かせないツールとなっている。今回登場するレンズはそのきっかけになったレンズたちだ。



OLYMPUS PEN E-P3 + Arriflex Cine-xenon 25mm f1.4

Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4 Schneider-kreuznach


アリフレックス シネクセノンは16mmフィルムのシネカメラ『アリフレックス16』用のレンズである。アリフレックス16はコンパクトで堅牢なシネカメラでロケを中心に活躍した。Cine-Xenon 25mm F1.4はシャープな描写と雰囲気のある写りを両立したレンズだ。映画用レンズらしい立体感はスチール用のレンズとは明らかに違う。本来のイメージサークルがマイクロフォーサーズより小さいため周辺に弱いケラレを生じてしまう。逆光においてもハレーションを生じやすいがそのケラレやハレーションも写りの魅力に変えてしまう懐の深いレンズである。

Arriflex Cine-Xenon 50mm F2 & Cine-Xenon 50mm F2



Cine-Xenonの50mm。2本あるのはコンディションと型式で写りが違い、用途が異なっているためである。
1本目のArriflex-Cine-Xenon 50mmF2は1967年の型で較的新しいタイプのレンズといえる。マルチコートされているのでコントラストが高くはっきりとした写りが特徴である。その反面ハレーションには弱い。僕は主に順光の際にこのレンズを使う。

もう一本はコンディションのやや悪い1958年型のCine-Xenon(製品名にArriflexがついていない)である。戦後に製造された製品であるためマルチコーティングはされているものの逆光時には激しいハレーションを生む。ハレーションを起こしても解像度が落ちない稀有なレンズで、僕の撮影に欠かせないレンズになっている。絞りも15枚の円形絞りで絞り込んでも、絞り羽の形が目立たないのが魅力である。


シネレンズ・ポートレートセッション


Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4・1/60 F2.8 ISO400
(以降、カメラは全てOLYMPUS PEN E-P3を使用)

撮影の序盤では25mmF1.4を使うことが多い。それは、最も信頼しているレンズのひとつだからである。序盤はなんといってもモデルとのコミュニケーションに気を使うことが多い。どんな画が撮りたいのか、どういう方向性に持ち込みたいかといったことを伝えることに神経を使うので、一番使い慣れたレンズで撮影に臨む。そんな手探りな中でもきっちりと結果を出してくれるそれがCine-Xenon 25mmF1.4だ。近接〜ミドルレンジまでを得意とするこのレンズは、ポートレートではオールマイティーなレンズといえる。マイクロフォーサーズ機で使用した時の焦点距離は35mm換算で50mmとなる。


Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4 ・1/30 F2.8  ISO400

撮り進めるうちにモデルと意思疎通が図れてくる。そのときに50mmは威力を発揮する。今回選択したのはArriflex-Cine-Xenon50mmF2(順光用レンズ)。今回は強めの逆光ライティングであったが、適度なハレーションを生むことで空気感が出ることを狙った。


Arriflex Cine-Xenon 50mm F2(NEW)・ 1/30 F2.8 ISO400

適度なハレーション感がこのレンズの特徴。50mmはマイクロフォーサーズだと100mm相当の画角。ポートレートでは適度な圧縮効果を生み、被写体の存在感を高める。


Cine-Xenon50mm F2(OLD)・ 1/60 F2.8 ISO400

その後、メイクと衣装をチェンジして2カット目に挑む。
2カット目はその場の雰囲気に任せる。よく言えばセッション、悪く言えば行き当たりばったりであるが、世界観の共有が出来ていれば、そのことが最良な結果を生む。ここからはモデルとの真剣勝負である。ここでセレクトするレンズはXenon50mmF2ハレーション専用レンズである。

僕は勝手にZONEと呼んでいるが、モデルがぐっと入り込む時間帯がある。そのピークにこちらのピークをあわせていく。そのことで想定していたよりもいい写真が撮れる事がある。そのピークにあわせるためにこちらも個性の強い攻めのレンズを選択する。



Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4・1/50 F2.8 ISO400


Cine-Xenon50mm F2(OLD) ・1/60 F2.8 ISO400


Cine-Xenon(OLD)  25mm F1.4・1/60 F2.8 ISO400


Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4・1/60 F2.8 ISO400(繰り出しマクロ)


Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4・1/40 F2.8 ISO400

ZONEに入るとモデルの世界観を表現するスキルが問われるが、シネレンズの懐の深さがそれを補ってくれる。強烈な逆光においてもしっかりと写るこのレンズは僕が最も信頼するレンズのひとつである。レンズ交換の際のわずかな時間でも、スーッとZONEから抜けてしまうことがあるので同じレンズで一気に撮影する。


Arriflex Cine-Xenon 25mm F1.4・1/30 F1.4 ISO800


Arriflex Cine-Xenon 50mm F2(NEW)・ 1/25 F2 ISO800


Arriflex Cine-Xenon 50mm F2(NEW) ・1/13 F2 ISO1600

そして、セッションの終盤にまた25mmF1.4にスイッチする。
もっとも使い慣れたこのレンズでもう一歩踏み込んだ撮影が出来ないかトライアルする。アンニュイな表現はこのレンズのもっとも得意とする所である。

ぼくがレンズセレクトで最も気を使っているのは世界観が繋がるかどうかだ。
レンズを交換した際に写りがガラッと変わってしまっては興ざめである。Cine-Xenonはどの焦点距離も世界がきれいに繋がる。映画用に作られただけあってこの部分を重視していたようだ。でもそれは色味やボケ味が同じということではない。むしろ色味やボケにはレンズごとにばらばらであるが、写りの雰囲気に統一感を感じるのである。

現代の平面的で整えられた写りのレンズでは決して体験するこの出来ないナイーブな世界がここにはある。




モデル:はねゆり(株式会社キティ
ヘアメイク:高橋純子
(Hair & Make:Junco Takahashi )
スタイリング:橋爪里佳
(Styling:Rika Hashidume)

<プロフィール>


上野由日路(うえの よしひろ)
山口県出身 1976年生まれ。六本木スタジオを経て独立。オールドレンズポートレートカメラマンとしてレンズごとのテイストを生かした表現を得意とする。オールドレンズの魅力を発信するためにワークショップ『オールドレンズ写真学校』やイベント『オールドレンズフェス』を主宰している。主な著書に『オールドレンズ銘玉セレクション』(玄光社)、『オールドレンズ×美少女』(玄光社)、『オールドレンズで撮るポートレート写真の本』(ホビージャパン)がある。

シネレンズ+美少女 CINEMA LENS+CHICS
http://raylow331.wix.com/cinemachics

上野由日路
http://raylow331.wix.com/raylowworks#

 

<著書>


オールドレンズ銘玉セレクション