TOP > コンテンツ一覧 >

The Best LENS 〜このボディで使いたいレンズ!〜

12
The Best LENS 〜このボディで使いたいレンズ!〜
「どのレンズを選ぶべきか・・・?」
それは写真を制作する者にとって永遠の課題であり、撮影に出かける前に毎回悩むところ。悩みぬいた末に「うーん、やっぱり標準ズームレンズで」なんて優柔不断になっていませんか?そんな貴方に、赤城耕一がカメラのボディごとにベストチョイスとなるレンズをご紹介します。
公開日:2015/03/20

KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8

photo & text 赤城 耕一
プロミナー8.5mmF2.8を装着したオリンパスOM-D E-M1。デザイン的なバランスは悪くない。35mm判の換算画角は17mm相当になるが、実焦点距離からみればかなり被写界深度が深いレンズだ。

「Kowa」という名前を聞いて、すぐに中判カメラの「コーワシックス」や、28mmレンズ固定の35mm判ワイド専用カメラ「コーワSW」を思い浮かべる人は、ベテランの写真趣味人であろうか。

コーワは「コルゲンコーワ」「キューピーコーワゴールド」など医薬品でも有名だし、食品も取り扱うなど、多くの分野を網羅する120年の歴史がある大企業だが、70年代の終わりくらいまでは先に述べたコンシューマ向けのカメラ、レンズを発売していた。
レンズは「プロミナー」に代表されるブランドが有名で、実際に高い評価を受けていた。最近では光学製品は工業用や防犯用、観光地にある双眼鏡、スポッティングスコープなどが有名である。そして2014年になり、マイクロフォーサーズマウント用のレンズを3種発表。再びコンシューマカメラ用のレンズの製造に乗り出したわけである。
2014年9月20日。第一弾の製品としてマイクロフォーサーズマウント互換の超広角単焦点レンズ、プロミナー8.5mmF2.8が登場した。

画角は35mm判換算で17mm相当となる。非常に興味深いのはこのレンズは同社の高性能工業用レンズXC2シリーズをベースにしていることだ。このため、各収差補正は徹底しており、一般的な写真撮影においても高い解像力描写が期待できるわけだ。レンズは17枚構成で非球面レンズや低分散ガラスが採用されている。



フォーカスリングのローレットはコーワ6時代の交換レンズに酷似している。意識的なものであろうが、刻みは深く実用的にも使いやすい。絞りリング周りのボタンを押し、回転させるとシネ用のT値が現れる。

外観デザインも凝っている。金属の鏡胴で、かつてのコーワ6用の交換レンズのデザインを模したような作りになっており、カムによるフォーカスリングのなめらかな動作など、モノ的な作り込みも配慮されているのはさすがである。完全なる日本製というのもウリである。

ただし、MFレンズであり、マウント部に電子接点は備えられていないから、カメラ側との通信は一切考慮していない。つまり、カメラ内で行われる歪曲をはじめとする収差補正には一切カメラ側の手助けは期待できないわけだから、光学設計の素の実力がそのままさらけ出されることになる。このためレンズ設計にはよりチカラが入った感がある。

絞りは9枚羽根の円形、被写界深度がたいへん深い超広角レンズだが、F2.8という明るさで最短撮影距離も0.2mと近いためボケ味にも留意しているという。絞りリングは動画撮影の時のために、絞りリングの切替機構を備え、クリックとクリックレスを切り替えることができ、後者では動作は無音になり、3、4、5.6、8、11、17のT値が表示される。絞りリングのタッチもなかなかスムーズだ。なお距離指標はあるものの、被写界深度指標がないのはこのレンズのいちばん残念なところだ。

コーワのアナウンスによれば対角106°の画角にもかかわらず歪曲が0.12%ほどと優れており、直線が直線に写る理屈である。建築物撮影にも安心して使用することができる。実際に補正は良好であった。画面全域にわたって解像力にすぐれ、絞りによる描写変化が少ないことも特徴だ。開放から隅々までシャープに撮れるが、より均質性を求めるなら少し絞り込むとさらに均質性が高まるようだ。



巨大な金属製の専用フード。遮光効果は大きいと思うが、カブセタイプなので携行時には落とさないか不安になる。どちらかちえば動画用に用意されたものだろう。

やや冷酷ともとれる感情を排したようなすばらしくコントラストの高いソリッドな描写は、出自が工業用レンズであるということも理由としてあるかもしれない。ドキュメンタリーやシリアスなスナップショットが撮りたくなるレンズでもある。


コントラスト再現性に優れている。少し絞り込んだだけですぐにパンフォーカス描写を得ることができる。使いこなしは難しいが、カメラを水平レベルに構えるのが使いこなしのコツだ。
OLYMPUS OM-D E-M1 + KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8(以下同)
F11 1/1250 ISO400 WBオート  -0.7


ヌケがよく色再現も良好。至近距離でも像は常に安定していることも特徴。開放から性能が高いので極端な絞り込みは回折発生の原因になるから注意したい。
F8 1/640 ISO200 WBオート -0.3


歪曲収差の補正がよく、被写体と正対してカメラを構えると歪みはほとんど発生しないので超広角らしさを抑制させることができる。
F4 1/250 ISO400 WBオート モデル:平山りえ


窓からの極端な逆光にも動じないタフさを感じる。コントラストの低下もない。コーティングが秀逸で鏡胴内の内面反射抑制処理が良好だからだろう。
F5.6 1/125 ISO400 WBオート
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
  「赤城写真機診療所 MarkII」
〜高速連写はやめなさい〜

著者 赤城耕一
価格:1,900円+税
電子書籍版:1800円+税

<紙版>
Amazon
ヨドバシカメラ.com
紀伊國屋書店

<電子版>
Amazon Kindleストア
「赤城写真機診療所」
〜そんなカメラは捨てなさい〜

著者 赤城耕一
価格:1,800円+税
電子書籍版:1700円+税

<紙版>
Amazon
ヨドバシカメラ.com
紀伊國屋書店

<電子版>
Amazon Kindleストア
「ズームレンズは捨てなさい!」
著者 赤城耕一
価格:1,800円+税
電子書籍版:1500円+税

<紙版>
Amazon
ヨドバシカメラ.com
紀伊國屋書店

<電子書籍>
Amazon Kindleストア