オールドレンズの奇跡
公開日:2013/01/28
シュタインハイル Orthostigmat F4.5 F=35mm
photo & text 上田晃司
レンズはLマウント規格。LMリングアダプタを使用してライカM9-Pに装着している。前玉はマクロレンズのように小さく奥まった位置に配置されている。
Lens data
●生産国:ドイツ(US-Zone)
●発売年 :1945年
●販売価格:480ユーロ(購入時レート換算で約50,000円)
●シリアル:Nr.602577
●製造年:1945年
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1945年(昭和20年)。日本がポツダム宣言を受け入れ、横須賀沖に停泊していた第三艦隊旗艦ミズリー号上で降伏文書に調印。太平洋戦争が終結した年である。同年にポツダム宣言の執行のため、アメリカ太平洋軍総司令部(GHQ)が東京に設置され、日本は占領下に置かれた。
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フォーカス用のノブが付いており、ピント合わせがしやすい。ノブの形状が丸く、2つ付いているため、通称・ミッキーマウスと呼ばれることもあるとか。 | レンズにある「Made in Germany US-Zone」の刻印は、ドイツが1945〜48年の間、工場のあったミュンヘンがアメリカの占領下にあったためだ。
| レンズには専用のビューファインダーが付属する。ファインダーは明るく、非常に見やすい。被写体との距離によって視差を補正するダイヤルも搭載している。
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戦後の占領下で作られ歴史を感じさせる刻印がたまらない
日課であるオールドレンズ探しをしていたところ、とある海外サイトに筆者の物欲心を動かすレンズを発見してしまった。そのレンズが今回ご紹介する「シュタインハイルOrthostigmat F4.5 F=35mm」だ。
このレンズの何が筆者の心を動かしたかというと生産国を示す刻印なのである(いささかマニアックな点だがご容赦あれ)。具体的には、製造された年代によって「Made in Germany US-Zone」と「Made in Germany」の2種類がある。どちらも、ドイツ製の同一レンズではありながら、別の文字が刻まれているのだ。
このレンズが製造されたのは太平洋戦争後まもなく。戦後のドイツは、米国に占領された日本とは違い、米英仏ソの4ヵ国に分割された。シュタインハイル社のあるミュンヘンは1945年から4年間、アメリカ軍に占領され統治化にあり、そのため、Made in Germanyの後にUS-Zoneの刻印があるというわけだ。レンズに刻まれた「US-Zone」のたった7文字が、ドイツの歴史を感じさせてくれる貴重なアイテムにしている。なお「US-Zone」の刻印が入っているものはレアな部類に入り、通常の物に比べ1.5倍から2倍くらい高い値段が付いていることも捕足しておこう。
描写は、開放F4.5と無理のない設計にもかかわらず、前玉が小さいせいかトイカメラのような周辺減光を楽しめる。ピント位置はシャープではあるが、逆光条件で撮影するとコーティングのせいか、ふんわりとした描写になる。ただし、開放絞りが暗いため、基本的に昼間しか使えない…。
造りは非常に良く、重厚感がある。戦後物資のなかった時代背景を考えると、当時は相当高価な物だったに違いない。ちなみに、このレンズはオーストリアのクラシックカメラ屋の通販で購入した。あくまでも筆者の想像だが、戦後のドイツで使われ、オーストリアのカメラ屋に売られ、そして、はるばる数千キロ離れた日本にたどり着いたのではないだろうか。何とも考え深い。
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沖縄の真栄田岬近く。砂浜で絵を描いている方の後ろ姿を撮影。この地が1972年まで米国に統治されていたことを考えると、いろいろと考えさせられる。 (ライカM9-P f4.5 1/1000秒 ISO160 WB:4700K)
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辺野古周辺をスナップ。昔の社交街だった名残が今も感じられる。ペイントが薄くなっており、レトロでいい感じだ。画像等倍で見るとピント位置はとてもシャープなのがわかる。(ライカM9-P f4.5 1/1000秒 ISO160 WB:5500K)
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美しい沖縄の海をシンプルに切り取った。強烈な周辺減光がトイカメラのようだが、良いアクセントになっている。トーンも豊かで雲の立体感もしっかり表現できている。(ライカM9-P f4.5 1/1000秒 ISO160 WB:5400K) |
上田晃司のここがたまりませんっ!レンズには、専用の革ケースが付属している。購入したものは66年前の物とは思えないほど状態も良い。ビューファインダーを入れる場所がしっかりと設けられ、革ケースにもやはり「Made in Germany US-Zone」と印字してある。昔の製品は細かい部分まで手の込んだ造りになっているのでたまらない。 |
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上田晃司(うえだこうじ)
1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして 世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。
ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記 |