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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2012/11/19

JUPITER-12 35mm F2.8

photo & text 上田晃司

JUPITER-12はLマウント規格。L→MアダプターでライカM9に装着した。35mmレンズとしてはコンパクトで前玉も小さい。
Lens data
●生産国:USSR(旧ソ連)
●発売年:不明
●購入価格:11,000円
●シリアル:No.5801780
●製造年:1958年頃(前期型)
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1958年(昭和33年)頃。この年、初めて一万円札(図柄は聖徳太子)の発行が開始。また下関と九州を海底で結ぶ関門トンネルの開通。さらに東京タワーが完成した年でもある。当時のヒット商品をみると、フラフープやホンダのスーパーカブ、「てんとう虫」の相性で親しまれたスバル360、即席チキンラーメンがある。






絞り羽根は5枚で絞ると五角形になる。無段階調整で、リングはフィルター部分を直接回すために操作性は悪い。レンズには薄いブルーのコーティングが見える。
 レンズの後群がマウント面から約2cmほど飛び出ていて、思わずギョッとする。装着時にちょっとでも気を抜くと後玉に傷を付けてしまう危険性がある。

レンズの鏡胴はアルミ製のため非常に軽量。スケールで計ってみるとわずか107gしかない。数ある35mmレンズの中でも軽量の部類に入る一本だろう。

マウントの形状が合っていても、物理的に付かない何たる誤算だ!

最近購入したソニーNEX-5に合わせて、50mm相当の画角になるレンズを探していたところ、予算の関係上、旧ソ連製レンズ「JUPITER-12 35mm F2.8」に手を出すことになった。旧ソ連レンズと言えばコピーとして作られたものが多く、固体の当たり外れの多さで有名。そのため、まず「危険」という二文字が頭に浮かぶのだが、価格は安いため、宝くじを買うような楽しみがある。

レンズを買う際には、実物を入念に見てテストするのが一番。しかし今回はいろいろなカメラ屋を見ても在庫がなく、あえなくネットオークションで落札した。ファインダー付きで1万円ちょっとという値段だ。手軽にライカマウントのレンズを手に入れたい人にはうってつけだろう。

このレンズは、カール・ツァイス社が威信をかけて、ライカ社を追い越そうと製造し
たレンズ「ビオゴン35mm F2.8」のコピー。本家のビオゴン同様に写りには定評がある。後群がマウントより大きく突き出ているのが特徴で、逆に前玉はやや奥まった場所にあるため、フードを付ける必要はない。ある意味、レンズ好きにはたまらない形状をしている。鏡胴部分はアルミ製で軽量。色はシルバーとブラックがあり、このレンズはシルバーのため前期型になる。

NEX-5に装着しようとした所、レンズ後群が出すぎているため、カメラ内部に干渉し装着できないことに気づいた。…せっかくNEX用にレンズを購入したというのに、何たるミスだ。やはりロシアレンズは、実物を見て買うべしと再認識した。仕方がないので、M9に装着してみる。こちらも後群がシャッター幕に干渉しないかドキドキだったが、どうにか装着できた。

撮影してみると、さすが銘玉と言われるだけはある。周辺減光はほとんどなくボケも綺麗だった。現代レンズに迫るくらいの優秀さだ。個人的には、もう少し個性的な写りを期待していたのだが、驚くほど綺麗に写ったので、これはこれで満足としよう。それにしても旧ソ連レンズは奥深い。



築地の魚屋さんのワンちゃんを撮影させてもらった。絞り開放で撮影したが、ピント位置は非常にシャープ。コントラストも非常に高くクリアでヌケがよい。(ライカM9  f2.8  1/360秒  ISO400  WB:6000K)


くつろいでいる猫を撮影。ピント位置の猫の目を見てみると、とてもクリアでシャープに写っている。背景のボケは少し硬く線も太めの印象だ。(ライカM9  f2.8  1/360秒  ISO160  WB:5700K)


浅草を歩いて見つけたお洒落なカフェを撮影。開放値がF2.8なので少し暗い場所でもシャッタースピードが稼げる。(ライカM9  f2.8  1/60秒  ISO160  WB:6500K)

上田晃司のここがたまりませんっ!

レンズ後群がマウントから約2cmほど突き出ているため、NEX-5ではマウントアダプターを装着してもマウント面を突き出てしまう。これはGF3も同様で装着できない。逆の意味でたまらない。どうやらリコーGXR MOUNT A12には装着できるらしいのだが、また物欲が…。
 
CAMERA fanで「JUPITER(マニュアルフォーカスレンズ) 」を探してみよう!


「オールドレンズの奇跡」はフォトテクニックデジタル誌にて連載中です。



上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記