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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2012/04/18

INDUSTAR-22 50mm F3.5

photo + text:上田晃司
LUMIX GF2に装着するため、RAYQUAL LM-4/3マウントアダプターとメーカー不明のL/Mアダプターを使用している。
Lens data
●生産国:ソビエト社会主義共和国連邦
●発売期間:1950〜1960年頃
●現在の販売価格:1,000〜8,000円程度
●シリアル:N6202956
●製造年:1962年頃
レンズが生まれた時代
このレンズが製造されたのは1962年(昭和37年)。ソ連がアメリカの南に位置するキューバに核ミサイルを配備し、これに対してアメリカが撤去を求めて対立。核戦争の緊張が高まった「キューバ危機」が勃発。当時の日本では、北陸トンネルの開通や国産旅客機「YS‐11」がテスト飛行に成功。飯田久彦の「ルイジアナ・ママ」が大ヒットした年でもある。



INDUSTAR-22(左)の外観は、ライカのエルマー(右)をコピーしているようだが、構造はエルマーではなくテッサーに近い。造りはライカの方が圧倒的によい。

エルマーに近い外観ならば、エルマー用のレンズフードがはまるのではと思い、手持ちのものを付けてみると、ぴったり同じサイズ。思ったよりも様になる。
マウントを変換するためのL/Mアダプターが無限遠ロックの位置に干渉して無限遠が出ない。メーカー不明の安価なものに手を出した罰だろうか。


造りの粗雑さからはまるで想像がつかない優しい描写だった

手頃で面白いオールドレンズと言えば、ソ連製やロシア製である。筆者も何度か価格に釣られて手を出してきたが、ことごとく期待を裏切られた。特にハッセルブラッド1600Fと非常に酷似した外観の「KIEV‐88」という中判カメラは酷く、ワンシャッター目に壊れたという苦い経験もある。

そのため、二度と手を出すまいと心に決めていたが、この連載を機に約10年ぶりにソ連製レンズに挑戦してみた。まず、新宿近辺の中古カメラ店でレンズを物色。5店舗ほど回ってお手軽価格で数も多い「INDUSTAR‐22 50mm F3.5」に的を絞った。とある店舗では12本ほど同型の在庫があり、全部見せてもらったが、価格は2,000〜6,000円くらいとまちまちで、どれもカビやレンズ傷は当たり前のようにある。唯一6,000円のレンズだけがヘリコイドにある程度の重みがあり(他はすべてスカスカ)、見た目もマシだったのでこれを購入してみることにした。マシといっても、錆や腐食痕はあるけれど…。

このレンズはライカ L39規格のため、L/Mマウントアダプターを介してM9などのライカM型ボディに取り付けできる。マイクロフォーサーズ機のLUMIX GF2に装着するためには、さらに4/3アダプターを介して取り付ける。しかし、L/Mアダプターを装着してみると無限遠ロック位置がマウントアダプターに干渉してしまい使用できなかった。これは、筆者がマウントアダプターの都・香港で買ってきた格安マウントアダプターが原因かもしれないが、ともかく無限遠が出ない。そこで、マウントアダプターと干渉しているネジを外すことで、無理やり使えるようにした。

正直、全く写りには期待していなかったが、ライカM9とLUMIX GF2に取り付けてスナップしてみると、絞り開放から描写力が高く、ソフトなトーン。逆光時はさらにふんわりとした画像の柔らかさが際立つが、ピントはシャープだ。ソ連製やロシア製レンズは、当たり外れが多いことで有名だが、この個体は当たり玉と言っていいだろう。まるでくじ引きのようだが、これも一興。

 夕暮れ時の隅田川を撮影。絞り開放で撮影したものだが、遠景のビルはシャープに描写していることがわかる。絞り開放時の周辺減光は大いにあるが、良いアクセントになっている。(ライカM9  f3.5  1/2000秒  ISO160)

 
レンズの最短撮影距離は約1mとなっている。安価なマウントアダプターを使っている割にはピント位置は正確に連動しているようだ。日陰で撮影したところ柔らかく階調が豊かな描写が得られた。(ライカM9 f3.5 1/180秒 ISO320)

LUMIX GF2に装着すると100mm相当の画角になる。逆光気味で撮影したが大きなフレアは発生しない。(パナソニックLUMIX GF2  f3.5  1/4000秒  ISO100)


上田晃司のここがたまりませんっ!

このレンズは沈胴式。リスクを承知で恐る恐る鏡筒を沈胴させた所、シャッター幕に当たることなく収納できた(ホッ)。そのため、収納時のレンズの厚みは、ボディキャプの約1.5倍位の厚みになるので持ち運びには便利だ。
 


「オールドレンズの奇跡」は、フォトテクニックデジタル誌にて連載中です。


上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記