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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2013/02/28

千代田光学 SUPER ROKKOR 45mm F2.8

photo & text 上田晃司

マウントアダプターを含めて、NEX-5に似合うことを重視して選んだだけあって、無骨ながらまとまったデザインに。
Lens data
●生産国:日本
●発売年:1948年
●購入価格:10,500円
●シリアル:No.1408325
●製造年 1948〜1955年頃
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1953年(昭和28年)頃。当時の有名な出来事は、NHKが東京地区でテレビジョン本放送を開始し、大晦日には紅白歌合戦が初放送された。10円硬貨が発行され、1959年までに発行されたものは、硬貨の外周に溝が彫られていた。ちなみに硬貨式公衆電話が登場したのもこの年である。




コーティングは、薄いパープル系。光を当ててみると若干コーティングの劣化が確認できる。絞り羽根は9枚だが円形絞りではない。油染みがやや気になる…。
このレンズはフォーカスリングの形状が梅鉢の家紋に似ていることから通称「梅鉢ロッコール」と呼ばれる。鏡胴は真鍮製で、造りの良さが感じられる。
マウントはライカ Lと同じスクリューマウントL39を採用している。そのためNEX-5にはライカ L→NEXのマウントアダプターを介して装着する。

時代を超えてデザインが合うのはレンズとボディの複雑な系譜が要因?


荷物が多い海外撮影では、仕事用で使うカメラとオールドレンズを装着したNEX-5をスナップカメラとして携行している。今回、香港に行くことになったので、NEX-5に似合いそうなオールドレンズを探してみた。そこで目に留まったのが、お手頃価格かつコンパクトで、デザイン的にも特徴のあるSUPER ROKKOR 45mm F2.8だ。

このレンズは千代田光学から、1948年頃に発売されたバルナック・ライカのコピー機・Minolta35の標準レンズである。45mmという中途半端な画角は、当時のMinolta35-1型がフィルムの標準サイズである24×36mmではなく、24×32mmのいわゆるニホン判を採用したため、そのフォーマットに最適な標準レンズが50mmではなく45mmだったという説がある。
これをAPS-Cサイズの撮像素子を採用するNEX-5に装着すると、35mm判換算で67.5mm相当と、さらに中途半端な画角になる。なお、このレンズはライカのコピーということもあり、マウントはL39を採用している。そのためライカにはそのまま装着することも可能だ。

今回はこのレンズの特徴であるフォーカスリングの形状を活かすため、シルバークローム色のマウントアダプター(三晃精機製)を購入した。60年近く前のレンズと現代カメラの組み合わせではあるが、全体的に統一感があり格好がいい。たまには、デザインだけでオールドレンズを選ぶのも悪くないものだ。
しかしよく考えてみると、この組み合わせにはひとつの繋がりがある。SUPER ROKKORを製造した千代田光学は60年代初頭にミノルタに改称。時代は流れ、2003年にコニカと経営統合して、コニカミノルタになった。しかし同社は2006年にカメラ事業から撤退。そして同社のαマウントを継承したのがソニーなのだ。ソニーから発売されているNEX-5にSUPER ROKKORが妙にマッチするのは、この奇妙な系譜のせいなのかもしれない。



店じまいをしている市場をスナップ。一軒だけ鮮やかな光がついていた果物屋を撮影した。開放F2.8には少々暗いシーンだが、ISO800の高感度を使えば充分撮影できる。電球周辺のフレアが美しくでている。(ソニーNEX-5  f2.8  1/125秒  ISO800  WB:4500K)


バス停の看板を、香港ならではの鮮やかなネオンを背景にして撮影した。ボケはさほど大きくなく、線もやや太めだが全体的に雰囲気のある写真に仕上がった。(ソニーNEX-5  f2.8  1/80秒  ISO200  WB:4800K)


夕日に染まる香港島を撮影した。f8まで絞れば周辺までしっかりと描写する。逆光の影響により、変なフレアが出ているが、味と思えばこれもアリだろうか。(ソニーNEX-5  f8  1/4000秒  ISO200  WB: 日陰)



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価格:1,575円(税込)
著者:上田晃司

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「手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。
時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる“奇跡”を見せる」本書では上田晃司氏が魅了された全26種のレンズを軸に、その入手方法やカメラとの組み合わせ、レンズが描いた描写を大きく取り上げ、オールドレンズの魅力を余すところなく紹介。
上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記