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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2012/12/14

エルンスト・ライツ Summicron f=5cm 1:2

photo & text 上田晃司

NEX-5に「ライカM→NEX」マウントアダプターを介して装着。フォーカスリングのローレットの刻みや絞りリングの造りもよく全体的に高級感がある。
Lens data
●生産国:ドイツ
●発売年:1956年(固定鏡胴モデル)
●購入価格:500ユーロ(購入時レート換算で約54,000円)
●シリアル:No.1447002
●製造年 1956年頃
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1956年(昭和31年)頃。当時の有名な出来事は、南半球で初めて開催されたオリンピック・メルボルン大会。また、ヒマラヤ山脈のマナスル山を日本の第三次マナスル登山隊が登頂に成功。外交では日ソ国交回復。ヒット曲には現在も流れている「ラジオ体操の歌」などがある。






フィルター径は39mm。レンズコーティングはアンバー系だ。レンズを撮影してから気づいたが、レンズ左上のコーティングが劣化している…ショック。
 絞り羽根枚数は10枚。円形というよりは星形に近い印象。現行のライカSUMMILUX-M 1.4/50mm ASPH.と絞りの形状が似ている。

レンズの重さは285gと見た目以上に重い。NEX-5とマウントアダプターのセットで330gしかないので、装着時はレンズ部が重く、バランスは悪い。

銘玉と評されるSummicronよ、なぜその力を発揮しない!?

最近のユーロ安に便乗して、インターネット通販で数本のレンズを購入した。その中でも前々から手に入れたかったのが、Summicron f=5cm 1:2の固定鏡胴モデルだ。このレンズは筆者がライカに手を出した時から憧れていたレンズの一つなのだ。
注文から4日でドイツのカメラ屋から国際郵便で到着した。封を開けてみると外観は傷などもなくコンディションのよい上良品レベル。ライカM9に装着してみるとブラックボディにクロームのツートンカラーが映える。ヘリコイドのフィーリングはシルクのように滑らかで、55年前のレンズの質の高さを改めて実感することができた。

しかし、テスト撮影をしたところピントが合わない。何枚撮影してもf5.6まで絞ってもかなり前ピンになる。ついでに無限遠もぼんやりとしており、どうやら使い物にならない。クモリやカビでぼんやりしているのは我慢できるが、ピントが合わないのは我慢できない。解像力が高く、空気感をも写すはずの銘玉ではなかったのか、Summicronよ…。

何か物理的な不具合があるに違いないのだろう。NEX-5にも装着してみたが、やはり10mくらいまでしかピントが合わない。中国製のマウントアダプターのせいもあるかもしれないが、結局ピントの合う近距離専用で使うことになってしまった。
フルサイズでの画質を楽しみたかったのだが、NEX-5に装着したため、80mm相当の中望遠レンズになった。ピントは絞り開放ではとてもシビアなのでしっかり合わせないとピンボケしてしまう。f2.8くらいまで絞ると使い易くなるが、夜の香港スナップには暗すぎるので被写体が限られ、筆者の好きな裏路地を夕方以降に撮影するには三脚が必要だった。
画質はさすがSummicron。ピントの合う部分は驚くべきシャープさ。絞り開放時の丸ボケも美しい。この画質を見るとやはりM9で使いたくなる。少しコストは嵩むが、オーバーホールに出そうと決心した。



香港の佐敦駅周辺にある肉屋を撮影。気温30°にもかかわらず、むきだしの肉を屋外に吊るして販売していた。文化の違いに思わずシャッターを切る。絞り開放でややソフトだが、見せたい部分はしっかりと出る。(ソニーNEX-5  f2  1/200秒  ISO800  WB:3000K)


雑居ビルの雑貨屋の猫を撮影。ピント位置は非常にシャープで、ボケがソフトなぶん、被写体を際立たせている。背景に見える点光源が綺麗な丸ボケとなって美しい。(ソニーNEX-5  f2  1/125秒  ISO400  WB:4850K)


M9に装着して奥の自転車にピントを合わせて撮影したら、手前の水溜まりにピントが…。これはこれで雰囲気があるがピント位置が4mくらいずれているようだ。(ライカM9  f2.8  1/500秒  ISO200  WB:6000K)

上田晃司のここがたまりませんっ!

鏡胴が少しぐらぐらするので回してみるとレンズ部とヘリコイド部が分離した。一瞬壊れたかと顔が蒼くなったが、すぐに元通りに直せる。レンズが外れるので後玉の清掃がすごく楽に行える。本当は外していいのかわからないが、物をバラすのが好きな筆者にはたまらない。

CAMERA fanで「ズミクロン 」を探してみよう!


「オールドレンズの奇跡」はフォトテクニックデジタル誌にて連載中です。



上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記