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銀塩手帖

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銀塩手帖
フィルム、銀塩写真に関する情報を記録していきます。
公開日:2015/10/29

ニコン製カメラ全機種を展示、ニコンミュージアム

photo & text 中村文夫

10月17日にオープンしたニコンミュージアムは、日本の光学メーカーで最大規模を誇る企業ミュージアム。2017年に100周年を迎える永い歴史のなかで、ニコンが世に送り出した光学機器の全貌を知ることができる。
 最大の見どころは、ニコン製カメラ全機種を展示するコーナー。カメラ第一号機であるニコンI型に始まり最新のデジカメまで450点もの製品が数十メートルに及ぶ長大なウィンドーに並ぶ様は圧巻の一言に尽きる。またFutureShowcaseと名付けられたコーナーでは、今回初めて公開されるニコンFの試作機や1972年のフォトキナに参考出品されたAFレンズなど、日本の光学工業遺産と言うべき貴重な資料を展示。さらにSpirit of Nikonコーナーにある自社で溶解した光学ガラスの塊などもニコンならでは展示といえるだろう。このほか光とレンズの基礎知識が学べるLens Laboratory、トラックボール操作によるインタラクティブ映像でニコンの最先端技術を解説するUniverse of Nikonなど、体験型コーナーも充実。さらにデジタル時代になくてはならない半導体製造装置や最先端医療現場で活躍する医療機器、人工衛星に搭載されている宇宙観測機器など、ふだん目にすることがない産業機器を展示したコーナーもあり、日本を代表する総合光学メーカーであるニコンの懐の深さに改めて気付かされる。


ニコンI型から最新デジタル一眼レフまで、ニコンが発売した450点以上のカメラとレンズを展示したコーナー


ニコンI型
ニコンが1948年に発売した最初のカメラ。ライカとコンタックスの長所を取り入れたレンジファインダー機で、24×32ミリ(ニホン判)という特殊な画面サイズを採用、36枚撮りフィルムで40枚の撮影ができる。オークションに出ると数百万円は下らない稀少品だ。


ニコンMと設計図(1949年)
I型が採用したニホン判は世界標準のライカ判より画面の横幅が短く、当時アメリカで普及していた自動現像機を使うとコマの途中でフィルムがカットされる恐れがあった。画面サイズを36ミリに広げればこの問題は解決できるが、基本設計の変更なしで広げられるのは34ミリが限度。そこで考え出されたのがコマ間を広げることで、その結果、M型には24×34ミリという変則サイズが採用された。


初期のレンジファインダー用ニッコールレンズ
中央の85ミリF2は「ニコン神話」を造った有名なレンズ。たまたまこのレンズで撮影された自身のポートレートを見たD・D・ダンカンがその高性能に驚き、朝鮮戦争の取材にニッコールレンズを使用。これがきっかけでニッコールレンズの優秀さが世界に認められた。


ステレオニッコール3.5センチF3.5(1957年)
左右に並べた光学系で2カットの写真を同時撮影。ビューワーで立体写真を鑑賞する。製造台数が非常に少ないことで知られている。


フィッシュアイニッコールカメラ(1957年)
120フィルムを使用するボディにフィッシュアイ16.3ミリF8レンズを固定式にした気象観測用全天撮影カメラ。雲量測定などに利用された。


ニコンF
1959年に発売したニコン初の一眼レフ。レンジファインダー機のSPをベースに開発された。視野率100%のファインダーや高度なシステム性に加え、高い堅 牢性が評価され世界中のプロカメラマンに愛用された。1964年東京オリンピックのシンボルマークの制作者とし有名な亀倉雄策がデザインを担当。


オートニッコールテレフォトズーム8.5-25センチF4-4.5
1959年に発売された世界初のスチルカメラ用ズームレンズ。


ニッコールH300ミリF2.8
1972年、札幌オリンピックでスケート競技撮影用に開発されたニッコール初のサンニッパ。


フィッシュアイニッコールオート6ミリF2.8(1972年)
220度という画角を持つフィッシュアイレンズ。ミラーアップなしで撮影できる。トンネル内で前方だけでなく後方も同じ画面に収めるなど、特殊用途で活躍した。


スペースカメラ
宇宙空間という過酷な状況下で使用するため、NASAの要求する厳格な規格に沿って開発された。これまで雑誌などの記事で何回も紹介されてきた貴重なカメラだ。



ニコンフォトミックFTN NASA(1971年)
アポロ15号に搭載されたほか、人工衛星間のランデブーやドッキングの実験をするスカイラブ計画に使用された。


ニコンF3NASA Big(1980年)
スペースシャトル計画のために製作。長尺マガジンが装着されている。


ニコンF3NASA Small(1980年)
船内だけでなく船外活動にも使用された。ベースの薄いThinフィルムを使用し72枚の撮影ができる。





ニコンQV-1000C(1988年)
報道機関向けに開発された一眼レフタイプの電子スチルカメラ。専用交換レンズが2本用意された。


ニコンE3(1998年)上
ニコンE3S(1998年)下
1995年発売のニコン初のデジタル一眼レフE2の後継機として登場。センサーは有効画素数130万の2/3型CCD、縮小光学系により、35ミリ用レンズがそのままの画角で利用できる。


ニコンD1カットモデル(1995年)
初めてAPS-Cサイズセンサーを採用したデジタル一眼レフ。有効画素数は266万。


懐かしいカタログを展示したコーナー


1952年、ニッコールクラブ発足時の入会案内。カルチェ・ブレッソンや木村伊兵衛など有名カメラマンだけでなく、芸術家のイサム・野口、理学博士の湯川秀樹、相撲取りの吉羽山から経済界の重鎮まで、今では信じられないような豪華メンバーが発起人に名を連ねている。


1919年にニコンはドイツ人技術者8人を招聘。当時の大井工場で写真レンズの本格的開発をスタートさせた。なかでもハインリッヒ・アハトは設計部設計課主任として1928年まで日本に残り、ニコン初の写真撮影用レンズのアニターなどの設計に尽力した。


写真用レンズの種類が増えた結果、レンズ名を統一する動きが起こる。そこで当時の社名であった日本光学の略称NIKKO(日光)にRを加えたNIKKOR(ニッコール)という名前を考案。1932年に商標登録された。


1935年、キヤノンの前身である精機光学工業は35ミリレンジファインダーカメラ発売に際し、撮影用レンズと距離計の設計製造をニコンに依頼。第1号機のハンザキヤノンにはニッコールレンズが採用された。


フロア中央にはFutureShowcase、Spirit of Nikonと名付けられたコーナーがあり、カメラの試作品や報道用カメラのほか、カメラ開発の歴史を解説する展示を見ることができる。


ニコンI型試作機(1947年)
ニコンI型開発に当たり20台製造された試作機の第1号機。1997年、歴史資料の入ったダンボール箱の中から外殻だけが発見された。


ニコンF試作機
1950年代、ニコンF開発の際に製作された。向かって右側の部分に21ミリ超広角レンズ用コンツールファインダーを内蔵している。レンズマウントはバヨネット式だが、現在のFマウントとは異なる規格で、左右どちらに回転させても着脱できる仕様。



AFニッコール80ミリF4.5
世界で初めて実用化されたオートフォーカスレンズ。ファインダー中心部の像が最もシャープになる位置を光電導素子で検出してピントを合わせる。1971年4月に完成し、翌年のフォトキナで展示された。



レフレックスニッコール1000ミリF6.3
1964年の東京オリンピックの際、報道向けに開発された超望遠レンズ


画像電装装置NT-1000(1984年)
現像したフィルムをセットし、画像をプリントすることなく電送できる。ニコンは1983年に共同通信社とともに世界初のフィルムダイレクト電装装置を開発。写真が新聞社に届くまでの時間が大幅に短縮され、ニュースの速報性アップに多大な貢献をした。



光学ガラスの塊を展示するコーナー。ニコンは日本で唯一、ガラスの熔解を自社で行うカメラメーカーだ。


レンズ加工用の研磨皿を展示するコーナー


シャッターの耐久試験器
以前は人の手でフィルムを巻き上げシャッターを切る方式だったが、現在では自動機械を用いている。


双眼鏡の歴史を展示するコーナー
1918年、ニコンの前身である藤井レンズ製造所が製作した天祐号から現在に至るまで歴代の製品を展示



戦前に作られた直径が1.5メートルもあるサーチライト用凹面鏡。この技術は、現在の太陽炉などに利用されている。

Lens Laboratory レンズの実験室





後ろにアイピースを取り付けた撮影用レンズでコマ収差を見るための装置。新旧レンズの比較ができる。


色収差を見るための装置。スイッチを押すと手前の光学系が入れ替わり、画面に写ったNの字の回りに発生する色にじみが変化する。


ドアスコープ、写真撮影用レンズ、虫眼鏡で格子状の像の歪みが比較できる。


コーティングの有無で光の透過率を比較する装置


顕微鏡をはじめ産業用機器を展示するコーナー

JOICO顕微鏡(1925年)
ドイツ人技術者アハトが設計した対物レンズを使用したニコン初の本格的顕微鏡。


半導体製造に使用される巨大な縮小光投影用レンズ


ニコングッズ販売コーナー


ニコンファンの間で有名なニコン羊羹をはじめ、タンブラーやペーパークラフト、日本手拭いやトランプなど、さまざまなニコングッズを手に入れることができる。



ミュージアムのシンボルとも言える巨大な合成石英硝子インゴット。自由に手で触れることができる。また館内はシアターで上演している映像など著作権の発生する展示物以外、自由に撮影可能。照明も明るいのでISOを1600程度にセットすれば手持ち撮影もOKだ。


<施設情報>
ニコンミュージアム
住所:東京都港区港南2-15-3 品川インターシティC棟2F(株式会社ニコン本社2F)
開館時間:10時〜18時(最終入館は17時30分まで)
休館日:日曜、祝日および当館の定める日
入館料:無料
ウェブサイト:http://www.nikon.co.jp/profile/museum/



中村 文夫(なかむら ふみお)

1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。日本カメラ博物館、日本の歴史的カメラ審査委員。
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  2014/07/04
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