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銀塩手帖

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銀塩手帖
フィルム、銀塩写真に関する情報を記録していきます。
公開日:2015/11/13

エボニーが上野彦馬写真機を復刻、広川泰士氏による湿板写真撮影

CAMERA fan編集部
上野彦馬写真機・復刻版

上野彦馬という男がいた。写真愛好家には今更説明の必要はないだろうが、デジタルから写真を始めたビギナーのために少しだけ解説しよう。上野彦馬は、1838年に長崎で生まれ、日本で最初に営業写真館を開いた写真家だ。時計師の父を持ち、オランダ人軍医ポンペから舎密学(化学)を学び、スイス人写真家ロッシェから写真撮影の技術を学んだ。上野が撮影した坂本龍馬や高杉晋作など幕末の志士たちのポートレートは誰もが一度は目にしたことがあるだろう。西南戦争の戦跡を撮影した日本で始めての従軍カメラマンでもある。当時は、フィルムが生まれる前で、ガラス板に溶剤を塗って感光材料とする湿板写真であった。(湿板写真については、過去の記事「甦る古典撮影技法 湿板写真館がオープン」をご参照のこと)



上野彦馬坂本龍馬
撮影:上野彦馬撮影局



上野彦馬写真機・復刻版

エボニーが5日間をかけて、長崎歴史文化博物館にあるオリジナルを採寸し、構造と材質を分析した。パーツの一つ一つ、ビスの1本に至るまで正確にコピーし設計図を起こし、材質もオリジナルと同じものを利用し制作した。企画から制作には1年半を要したという。


復刻版は2台製造され、1台は発注主である長崎歴史文化博物館に収められ、1台はエボニー本社(東京・板橋)が所有している。

とても美しい造作のボティ。これぞ写真機という貫禄がある。ボディは、サクラ材の木製フレームと、真鍮製の部品から成っている。幕末当時に、この設計技術と金属部品の製造技術があったことに驚かされるが、これらはオランダやフランスから持ち込まれた技術をもとに、日本人ならではの器用さで完成されたものだろう。サクラ材を使っていることから、日本製であることは間違いないという。


ボディの機能は、ライズ、ティルト、スイングが可能。当時としては非常に多機能モデルだったのだろう。



レンズは、オリジナルに装着されているものとは同じではない。当時写真家たちが使用していた機種を考証し、エボニーがセレクトした。結果、フランス ダルロー社の「Darlot wide angle hemispherical(ダルロー ワイドアングル エミスフェリカル)」を採用。上野彦馬はこのような広角系のレンズを使用していたという。


フィルム(ガラス板) フォルダー
折りたたみ式で、表裏でガラス板を2枚収納可能
 フィルム(ガラス板) フォルダーのロック部。脱落防止のロック部品。
ボティ部 真鍮部品 ティルトが可能
エボニーはこの部品の制作には苦労したという
フィルム(ガラス板) フォルダーのロック部品

ボディ部 レンズボードのロック部品
ボディ部 ライズ用の部品


写真家 広川泰士氏(左)と復刻版の制作を行ったエボニーの坂梨寛美社長


撮影実習の様子


東京工芸大学の広川ゼミの学生と、大学院生。
学生たちが、湿板写真で撮影してる様子をスマートフォンで撮っているのが非常に面白い風景だった。


撮影指導する広川泰士氏
 

現像処理

ワカサギ釣り用のテントを暗室として使用



湿板写真に造詣の深い、東京工芸大学の高島圭史先生。高島氏のアドバイスのもと、感光材料の準備と現像処理が行われた。





湿板写真作品

周辺部の溶剤が剥がれてしまった。やはりコロジオン液を塗りがとても難しいと言う。
しかし、中央部の画像はとてもシャープで解像感があり現代のカメラで撮影されたものかと見間違うほど。


これもコロジオン液の塗りムラ。


実習を終えて




大学院生の呉在雄(オウ チェウン)さん。現在、古典技法を学んでいる。
「湿板写真は、フィルムとはまた違った味があり面白いです。デジタルの技術はこのまま進化すると思いますが、このような古典的な撮影方法を学び、身に付けることで自分の表現が広がるのではないかと思います。今後、もしフィルム感材がなくなっても、湿板写真だったら薬剤とガラスと印画紙があれば自分で写真を作ることができると思います。昨日は、興奮して眠れませんでした。」


学生たちは、はじめて体験した湿板写真に、難しさと面白さを感じたようだった。デジタルフォトとは全く異なる湿板写真の表現は、これから写真作家家や広告フォトグラファーを目指す彼らにとって、新しい表現を生み出すスパイスになるかもしれない。

現代の大判カメラ




現行品の大判カメラ エボニー製 RW45
エボニーのロングセラーの大判カメラ。ボディには、マホガニー材とチタンを使用。重量は1.7kgと超軽量である。こうしてみるとカメラの基本構造は、上野彦馬写真機と構造は変わらない。写真機の構造の普遍性を感じる。


<関連サイト>
エボニー
http://www.ebonycamera.com/index2.html

長崎歴史文化博物館
http://www.nmhc.jp/


<情報協力>
Foto:Mutori
http://fotomutori.com/


<カメラファンがオススメする書籍>

 
IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」南雲暁彦・著


「個性あふれる"私らしい"写真を撮る方法」野寺治孝・著

これからフィルムカメラをはじめたい人のためのガイドブック

フィルムカメラ・スタートブック」大村祐里子・著
 
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