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銀塩手帖

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銀塩手帖
フィルム、銀塩写真に関する情報を記録していきます。
公開日:2014/07/28

露出計の使い方 セコニックスタジオデラックスIII L-398A / フラッシュメイト L-308S /ツインメイト L-208

photo & text 中村 文夫


露出計を内蔵したカメラが主流の今、単体露出計に触れる機会はめっきり少なくなった。だが撮影意図に合った的確な露出を得るのに、単体露出計ほど頼りになるものはない。さらに単体露出計を使えば露出に対する理解がいっそう深まり、カメラ内蔵の露出計を使うときでも、迅速かつ確実に思い通りの露出が得られるようになる。このほか露出計を内蔵していないクラシックカメラ、径年変化で露出計が作動しなくなったカメラを使う際も露出計は大活躍するだろう。

測光方式による違い

単体露出計には反射光式(はんしゃこうしき)と入射光式(にゅうしゃこうしき)の2種類の測光方式がある。最初はこれらの違いについて説明しよう。


【反射光式】



反射光式とは、光源から出た光が被写体に当たり、そこから反射した光の強さを測る方式のこと。ちなみにカメラに内蔵された露出計はすべて反射光式だ。撮影する位置から測れる利点があるが、被写体の光の反射率の影響を受けやすい。たとえば白い色は反射率が高いので、反射光式露出計は被写体が明るいと判断、露出をアンダーめに表示してしまう。その結果、本来白く再現されるべき被写体がグレーに写る。反対に黒い被写体は反射率が低いので露出計は暗いと判断。露出がオーバーになると同時に黒く写るべき部分が、やはりグレーになってしまう。これを防ぐためにはカメラの露出補正機能を使い、白を白く写すにはプラス補正、黒を黒く写すにはマイナス補正する。


反射光式露出計




【入射光式】



入射光式とは被写体に当たる光の強さを直接測る方式のこと。被写体の反射率や背景の明るさの影響を受けないので、被写体の色を正確に再現できるほか、逆光など特殊な条件でも、シャドー部の明るさを測れば、影になった部分が暗くならずに済む。ただし被写体の位置で測光しなければならないので反射光式に比べると機動性に欠ける短所がある。しかし、撮影条件に左右されず常に正確な露出が得られる長所があり、プロカメラマンをはじめ多くのアマチュアが、この方式を愛用している。


入射光式露出計




反射光式〜被写体に向けてスイッチを押すだけ

反射光式露出計は、受光部を被写体に向け測光スイッチを押すだけで簡単に露出が測れるのでとても便利だ。だが、すでに説明した通り、撮影条件の影響を受けやすく、必ずしも撮影意図にあった露出が得られるとは限らない。さらに測光部の受光角が一定なので、使用するレンズの画角によって露出を調整する必要があったり、最近のカメラが内蔵する露出計のように分割測光機能がないので逆光時には露出を補正しなければならない。いわば反射光式は露出補正を前提とした測光方式と言えるだろう。いずれにしても単体の反射光式露出計は、カメラに内蔵された露出計ほど多機能ではなく、露出計のないカメラで手軽に露出を測るの向いている。



入射光式〜被写体に当たる光の強さをダイレクトに測る



これに対し入射光式は、カメラ内蔵の露出計では飽き足らない上級者向け。反射光式に比べると使い方にコツが要るが、入射光式露出計をマスターすれば、あらゆる撮影場面で意図通りの露出を得ることが可能。もちろん露出計非内蔵のカメラで、より正確な露出を知りたいユーザーにもおすすめだ。

最初に説明した通り、入射光式露出計は被写体に当たる光の強さをダイレクトに測る。被写体の位置で測るのが原則で、光球(ピンポン球を半分に切ったような白い受光部)をカメラのレンズの方向に向けて明るさを測る。


人物の場合

たとえば被写体が人物の場合、人物にはさまざまな方向から光が当たっている。屋外では主光源である太陽に加え、地面の照り返しやレフ板による補助光など、さまざまな方向から光が当たることになるが、光球をレンズに向けることで、これらの光を絶妙にミックスした適切な露出が得られる。ただし太陽が真上にあるときなど、光球に直接光が当たると正確な露出が得られない場合がある。こんなときは光球の上に手をかざして影を作るなどの工夫が必要である。

被写体が遠い場合

被写体が遠くにある風景写真の場合、わざわざ被写体の所まで行って測るのは不可能。だが実際にはカメラの位置で腕を伸ばし、光球をレンズに向けて測ればOKだ。主光源である太陽光は、自分が立っている場所にも同じ強さで降り注いでいると考えられるので、どこで露出を測ろうと測光値に大きな差は出ない。ただし白っぽいコンクリートなど地面の反射率が高いと、照り返しの影響を受ける場合がある。こんなときは、光球の下に手をかざして余計な反射を遮ると良いだろう。
このほか入射光式露出計は、ステンドグラスなどの透過光、自ら発光するイルミネーションなどの測光は苦手。このような被写体には反射光式露出計を使用するしかない。


近距離の場合

近距離で撮影する場合、レンズの繰り出し量が増えると像が暗くなる現象が起こる。またPLフィルターをはじめ色の濃いフィルターを使ったときも光が減衰する。いずれの場合もセットしたF値よりフィルム面の像が暗くなるので、その分の補正が必要になる。このとき補正の目安となるのが露出倍数で、2倍なら1段、1.5倍なら1段と1/2、4倍なら2段の意味。たとえば露出倍数が2倍なら絞りを1段開けるかシャッタースピードを1段遅くすると適正露出になる。

カメラが内蔵しているTTL測光式露出計は、撮影用レンズを通った光をファインダー内に設けたセンサーで測光するので露出倍数のことは無視して構わないが、単体露出計の場合は露出倍数を考慮しなければならない。いずれにしても露出倍数はプラス補正が基本。撮影条件によって露出倍数が変化するPLフィルターと接写の場合は、使用説明書に記載された露出倍数表を参考に補正量を決めると良いだろう。




接写時の露出倍数表
フィルター使用時の露出倍数表
(ニコンの取扱説明書より)



【撮影例】
白っぽい背景は反射率が高いので、カメラ内蔵の露出計や単体の反射光式露出計だと、この影響を受け露出がアンダーになってしまう。だが入射光式露出計なら、被写体に当たる光の強さだけを測るので、背景の影響を受けず主要な被写体が適正露出になる。


F11 1/13秒 ISO200
カメラ内蔵のTTL露出計(中央重点平均測光)で測光


F11 1/6秒 ISO200
入射光式露出計で測光


黒っぽい背景は反射率が低いので、カメラ内蔵の露出計や単体の反射光式露出計で測ると露出がオーバーになってしまう。だが入射光式露出計なら、背景の影響を受けず主要な被写体が適正露出になる。


F11 0.3秒 ISO200
カメラ内蔵のTTL露出計(中央重点平均測光)で測光して撮影



F11 1/6秒 ISO200
入射光式露出計で測光して撮影

ここで注目したいのは、背景が見た目通りの色に写ったカットの露出(絞りとシャッタースピードの組み合わせ)が同じであること。入射光式露出計露出計を使えば、背景の色に関わらず、同じ測光値が得られる。これに対し反射光式露出計で測光した値で撮影した2枚の写真は、それぞれ白と黒で再現されるべき背景の色がグレーっぽくなった。これは露出計が被写体の反射率の違いを検出できないから。そのため、白と黒の中間であるグレーに写るよう露出を決める。もう少し詳しく説明すると、白と黒の中間の反射率は18%。カメラ内蔵式、単体露出計を問わず、反射光式露出計はすべてこの18%が基準に設計されているのでこんな結果になる。

グレーカードとは?

グレーカードとは、表面の反射率が18%になるように特別に作られた灰色のカード。標準反射板とも呼ばれている。最近ではデジタルカメラのホワイトバランスを手動でセットする際に用いられることが多いが、もともとは反射光式露出計で適正露出を得るためのアクセサリー。写真のように被写体の直前にカードを置き、反射光式露出計で測光すれば、入射光式露出計に近い値が得られる。たとえばカメラ内蔵の露出計を利用する際、このカードを被写体の前に置き、スポット測光でカード表面の露出を測れば、反射光式の欠点が補える。なお、このとき気を付けたいのがカードを置く角度で、主光源とカメラレンズの中間に向けるのが基本になる。グレーカードは値段も安くコンパクトに折り畳めるので、カメラバッグのポケットに入れておくと役に立つだろう。


グレーカードの使用状況

セコニック グレーカード 2,000円(税別)
このカードかあれば、反射光式露出計で入射光式に近い露出が得られる。

セコニックスタジオデラックスIIIL-398A


スタジオデラックスIII L-398Aは、1957年発売のスタジオSL-28A以来、基本デザインを変えることなく作り続けられてきた、いわば入射光式露出計のマスターピースだ。現行の398A型は、受光部に使用していたデバイスをセレン光式太陽電池からアモルファスセンサーに変更。商品が長く作り続けられた結果、セレン光式太陽電池が入手できなくなったのがその理由だ。受光素子は新型になったが、機能や操作性は従来のまま。初代から続く電源不要というDNAも、しっかり受け継がれた。

セコニックスタジオデラックスIII L-398Aの使い方



ステップ1:

最初に使用するフィルムに合わせISO感度をセットする。

ステップ2:

測光の際は露出計を被写体の直前に置き、光球をカメラレンズに向けて測光ボタンを押す。測光を終えボタンから指を離すと指針がロックされるので、後は露出計の位置を移動させて構わない。

光球の向きを変えると微妙な露出調整が可能。たとえばトップライト重視する際は光球の角度をわずかに上に向けるとか、複数ある光源のそれぞれに光球を向けて明るさを測り、その差を比較して露出を決めるなど、高度なテクニックが駆使できる。なお照明のコントラスト比を厳密に求める際は、付属の白色平板を利用する。


ステップ3:

測定値を読む。指針が示す数値はフートキャンドルという明るさの単位。(写真では160を示示している)

ステップ4:

ダイヤルを回して、数値を黒い▲マークに合わせる。

ステップ5:

ダイヤルの下半分にあるシャッタースピードと絞りの組み合わせが決まる。
これが適正露出だ。なお光量が強すぎ指針が振り切れる場合は付属の「Highスライド」を受光部のスリットに挿入。このときは測光値を赤い▲マークのHスケールマークに合わせる。

このほか別売りのスライドセットを利用すれば、ダイヤルリングの操作なしでF値の直読ができる。


Highスライド
使わないときは、背面のポケットに収納できる。

スタジオデラックスIIIL-398Aは反射光式露出計としても利用できる。その際は光球を外し、付属の光角度板(ルミグリッド)を装着。光角度板を被写体に向けて測光する。


ルミグリッドを取り付けた状態。左下はコントラスト比を測るための白色平板


フラッシュメイト L-308S



スタジオデラックスIII L-398Aは針式表示なので中間値を直感的に読み取ることが可能。シャッタースピードと絞りの組み合わせがダイヤルで表示されるなど、アナログ派にお勧めの単体露出計だ。
これに対しフラッシュメイト L-308Sは、測光した露出をシャッタースピードとF値でデジタル表示。1/2または1/3ステップで表示できるので、シャッタースピードとF値をデジタルで表示するカメラに最適だ。またフラッシュメイトL-308Sは受光部をスライドさせるだけで、反射光式と入射光式の使い分けが可能。商品名にフラッシュとある通り、フラッシュ光の測光ができる。



ツインメイト L-208



ツインメイト L-208はSは、手のひらサイズのコンパクトな単体露出計。スタジオデラックスIIIL-398Aと同様、指針で明るさを表示する方式で、ダイヤルを回して追針を指針に重ねると露出が分かる。さらに付属のシューを利用すれば、カメラのアクセサリーシューに取付可能。露出計を内蔵しないクラシックカメラに最適だ。また受光部をスライドさせると反射光式のほか入射光式露出計としても利用できる。

ツインメイトL-208の使い方




ステップ1:

反射光式露出計として使用する際は、受光部にある光球をスライドさせ受光素子が見える状態にする。


ステップ2:

被写体に受光部を向け、右側面にある測光スイッチを押すと赤い指針が明るさを示す


ステップ3:

ダイヤルを回転させ、緑の追針を指針に重ね、ダイヤルでシャッタースピードと絞りの組み合わせ読み取る。



付属のフットを取り付けると、カメラのアクセサリーシューに搭載できる。

メーカーサイト
セコニック 
http://www.sekonic.co.jp/

イラスト:玄光社つくり隊 



中村 文夫(なかむら ふみお)

1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。日本カメラ博物館、日本の歴史的カメラ審査委員。
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