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新製品レビュー

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新製品レビュー
公開日:2015/08/18

水中のカメラを Wi-Fiでリモート Birds iRodで水中撮影

photo & movie & text 宇佐見健


撮影地:山梨県 本栖湖

今まで不可能だった、水中のカメラをWi-Fiでリモート操作すること、

スマートフォンでモニタリングすることが可能に!


今春のCP+に初出展していたルミカのBirds iRodはカメラのWi-Fi通信と組み合わせてリモート操作する俯瞰撮影用の伸縮ポールだ。同様のポールはいくつかのメーカーから既に発売されているが目を引いたのは材質。黒いロッドは明らかに非金属だが、三脚等で見慣れたカーボンパイプとも異なる。聞けばカーボン含有のグラスファイバーを採用することで強度を保ちながら軽量にでき、材料と製造コストを抑えているという。


Birds iRodの長さは3種類、写真上からiRod 6G-7500(全伸高7.5メートル)、4G-4500(全伸高4.5メートル)、iRod 4G-3000(全伸高3メートル)

全伸長7.5mに伸びる最も長いタイプのiRod 6G-7500 でも自由雲台と専用ケースが付属で23,100円(税抜)の販売価格にも少々驚かされるが、Bird iRodのユニークな点は、グリップエンドにロッド内部の空気や侵入した水を逃がす穴が設けられていたり、4〜6段構成の各ロッドはメンテナンス時に容易に分割できたり、水中用途に対応した仕様だ。




水中撮影キットのケーブル両端

ロッド先端にはハンザ製の小型自由雲台がセットされている。伸縮ロックはレバー式で、大きな力を必要とはせずにロック/解除が可能。
伸ばしていくとロッドはそのまま抜けてしまうため、残り約10センチの付近に赤テープで目印がつけられている。この目印がついていたとしても勢い余って抜けてしまうことがあるので更に手前に黄色の目印でも欲しいところだ。
本来Wi-Fiの信号は数センチ程度のごく浅い水深でも遮断されて通信不能となる。仮に陸上で録画開始したカメラを水中に突っ込み、当てずっぽうで撮影した結果に何かが写っていたとしても偶然の産物でしかない。
例えば水の綺麗な透視度の高い環境で水面上からカメラと被写体を目視できたとしても空気中と水中では光の屈折率が異なるためドンピシャのフレーミングはかなり難しいのだ。
これをルミカの水中撮影キットに含まれる通信ケーブルが解決してくれる。ケーブルの一方はリモート用のスマホやタブレットに接続できるイヤホンプラグで、もう一方は樹脂で密閉されカメラボディに貼りつける形状になっている。
カメラとは電気接点ではなく、密着しているだけでWi-Fi通信が可能となり、手元でライブビューをモニターしながら撮影ができるのだ。
今までWi-Fiリモートの水中撮影は不可能なことと思いこんでいた身にしてみれば、「え、これだけでOKなの?」と拍子抜けしたのが正直な感想で、これは是非とも水中撮影を試してみたい! というのが本レポートの発端だ。

*2015年8月現在、水中撮影キットは未発売。現時点で発売日未定。

【撮影準備】


カメラ側のケーブル先端を両面テープでカメラに貼りつける。


貼りつける場所は、Wi-Fiアンテナに近い場所が好ましいと思われるが、両面テープで密着させるためカメラボディの外装で凹凸の無い部分であることが前提。今回はWG-M1の液晶モニタ窓部分に貼りつけた。



スマートフォンとリコー WG-M1をWi-Fiで接続し、カメラコントロール用アプリ「WG-M1」を起動する。今回は、iPhone5sを使用した。


iPhone「設定」>「Wi-Fi」の画面
Wi-Fiでカメラと接続する。


カメラとスマートフォンの接続および撮影操作はカメラメーカーの純正アプリを使うため、通常行う陸上でのWi-Fiリモート撮影と何一つ変わりはない。画面を目視しやすくする遮光フードなどの用意とともに、カメラとリモートデバイス両方のバッテリーには余裕を持って撮影に臨みたい。


スタンバイOK、まずは桟橋から撮影





iRodに装着されたリコー WG-M1。脱落防止のためケーブルとカメラをビニールテープで巻きつけている。


iPhoneでリアルタイムでモニタリングしながら撮影する。
カメラの動作と防水チェックも兼ねてまずは浅めの水深で短時間のテスト撮影。


ボート乗り場の桟橋下にいたコイの群れを撮影。徐々にiRodを伸ばして水深を深くしながら湖底から見上げるようなアングルを意識して撮影してみた。コイだけをアップで撮るなら手持ちしたカメラを水中突っ込むだけでも撮れるかもしれないが、このアングルはiRodのなせる技。仮に人間がスクーバで潜って水中撮影しようとしてもコイは警戒して逃げてしまうためこのような動画は撮れないだろう。


いざ湖上へ


ボートをレンタルして、さらに深度を稼ぐ撮影に挑戦した。天気が良いため明る過ぎてiPhoneの画面が見えにくいためムービーカメラ用の遮光フードを使用しながらライブビューを確認。


ロッドの取り回しはやはり両手行うほうが確実かつ画面も安定する。ロッドのグリップ部分にiPhoneを固定することも考えたが、水深の変化やアングル変更などのためにロッドを持つ位置が変るためその方法は実用的ではなかった。また、カメラと同時にケーブルも引き上げる必要があるなど結構慌ただしい。一人でのオペレーションはほぼ不可能と思う。



ごく浅い水深で餌に群がるコイを撮影。WG-M1が小さいことも手伝ってか、コイがほとんどカメラを警戒していないことがわかる。




おそらく釣りを趣味としている人には興味津津の動画だと思う。Birds i Rod とWG-M1の組み合わせで画面をモニターしながら大型のブラックバスを探した。

ようやく見つけたブラックバスは威風堂々。カメラを警戒するというよりも興味を持って近づいてきた様子もモニターで確認できたので更にロッドを伸ばして接近を試みたりしている。

2分20秒あたりで画面が激しく縦に揺れるのはロッドを伸ばす際の揺れがロッド先端に伝わったもの。本来は水面に対して垂直に近い角度で使うことを想定しているので、このようにロッドを寝かしたような状態で伸ばすと特に揺れが大きくなる。

4分00秒あたりで画面が激しく前後するのは離れて行ったブラックバスの注意を引いて再度カメラのそばにおびき寄せるため。その結果は動画をご覧いただくとして、このような事が出来るのは人間は陸上に居ながら手元のiPhone画面で水中の様子をモニタリングできているからに他ならない。これは、水中にあるカメラとのwi-fi通信を可能にしたルミカ水中キットの為せる技ということ。



特殊な水中撮影が今まで以上に手軽に


実際に使ってみるとBirds iRodは長く伸ばすほどしなりやすい。これはグラスファイバーの性質上避けられず、しなりと反発の反復運動で画面揺れが気になるケースもある。また、撮影中の取り回しでは通信ケーブルが絡んだり画面に見切れないように捌くことも必要。

そしてロッド操作では手が濡れるのでリモート機器への防水対策も不可欠。可能なら2人以上でロッド操作とカメラリモート操作の役割を分担すれば、ロッドやリモートを両手で操作できるので安定した画を撮りやすいはずだ。

また、今回使用したWG-M1では、7.5mまで伸ばすと一時的にライブビュー画面がフリーズする現象が数回あった。通信が遮断することはなかったが、これは使用カメラのWi-Fi通信感度でも差がありそうだ。 

とは言っても何より水面上からは目視できない水中の様子をスマホをモニター画面代わりにして構図決定や被写体の追従撮影ができることはエキサイティングで、無人水中探査艇を操るかのような楽しさも味わえた。映像作品としてまとめ上げるには撮影者のスキルアップも含めて、いくつかの対策や課題はあるが、水中という特殊な撮影フィールドを思い切り身近にしてくれるアイテムだと思う。



iRod +リコーWG30W地上編


せっかく本栖湖までやってきたので、iRodの本来の使い方である俯瞰の静止画撮影にも挑戦した。撮影に使用したリコーWG-30Wは、最長7.5メートルのロッドを使用した場合にも陸上では通常のWi-Fi通信は問題なく使用できた。しかしこのWi-Fiの到達距離というものはメーカーや機種ごとにかなり差が出る場合もある。例えば信号強さだけでなくアンテナの向きなども影響する上、今回の使用方法のような方向にある端末からのWi-Fi通信を想定もしくは重視していない機種が多いと思われる。
今までの自分の経験でも、たとえ一眼レフやミラーレス機であっても頭上5mで途切れがちになる機種が複数あったくらいだ。

水中キットのケーブルはその名の通り水中との通信が目的だが、陸上で不安定になりがちなWi-Fi通信を補助する目的で使っても良いと思う。試しに壁などの障害物でWi-Fiリモートが不可の屋内環境でも、このケーブルを使用すると通信可能になることも確認できた。



最長7.5メートルに伸ばした状態を横から。撮影時はこのようにスマホ画面を注視するため片手で垂直状態をキープするのはかなり難しい。




伸ばしたロッドを下から見上げたところ。ほんの少しロッドがしなっているのが判るだろうか?ロッドを移動したり向きや傾きを変える時はなるべくゆっくり動かすのが扱いのコツだ。

一人でロッドを保持してiPhone画面を確認しながら湖面の水平線が不自然に傾かないように気をつけて撮影した


撮影に同行したカメラファンスタッフにロッドを持ってもらい、自分はiPhone画面を確認しながらカメラの向きや傾きやを修正する指示を口頭でスタッフに伝えてちょうど良い場構図になったタイミングで撮影。もちろんスタッフはロッドを持つだけでリモートライブビューは見えていない。

このBirdsiRodの長所は、カーボン製のハイアングルポールにも負けない軽さと長さがあり、さらに驚くほど手頃な価格だ。短所としては
前述したが伸ばした状態でロッドがしなりやすいこと。予め付属しているボール雲台をみても判る通り、重量のある機材には適さない。俯瞰撮影の場合はロッド
をできる限り垂直に保つ必要があるのだが、ロッドの僅かな傾きと機材重量が影響し、しなりと反発による揺れが生まれ、さらにWi-Fi通信に伴うライブ
ビュー表示の遅延もあるため伸ばし切った状態でカメラの水平や垂直をきっちり出した構図をFIXするのは正直なところかなり難しい。今回は使用しなかった
がオプションには三脚状のサポートスタンドが用意されているので使用したほうが撮影の効率は上がるはずだ。またロッドの傾きが一目でわかるように水準器を
装着する工夫をしても良いだろう。

それらの課題をクリアすれば、あり得ないアングルからの撮影を手軽に楽しめる。巷はドローンでの撮影が人気だが、このような長尺ロッドの守備範囲でしか撮れない画もあるはずだと思う。



<メーカーサイト>

株式会社ルミカ
Birds iRod
http://focus.lumica.co.jp/birdsirod/

リコーイメージング
WG-M1
http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/wg-m1/

WG30W
http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/wg-30/
【著者プロフィール】  
宇佐見 健(Ken Usami)

1966年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、専門誌、広告代理店を経てフリー。カメラ雑誌では新製品レビューやハウツーなど各種特集ページの執筆も担当。カメラグランプリ選考委員。
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