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新製品レビュー

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新製品レビュー
公開日:2016/05/06

【特別編】オリンパス PEN-F

photo & text 赤城耕一
PEN-Fシルバーボディ。マグネシウム合金なので塗装だが、シルバーの方がよりクラシカルな雰囲気になる。光沢メッキの部分も多いため、シルバーの方がコストが高い

マイクロフォーサーズのセンサーを搭載したオリンパスのミラーレスカメラはペンE-P1から始まった。スタイリングをかつての同社の「ハーフサイズ一眼レフフィルムカメラ PEN-F」に範をとり、機能面だけでなく、そのデザインが注目され、PENの名を世の中に知らしめることになった。
のちに一眼レフスタイルのOM-Dシリーズも加わり、ネーミングもメジャーなことから、PENよりもさらに話題になった。このため現在のシステムの基軸はこちらにシフトしたようにみえる。
しかし、私は当初はOM-Dの初号機OM-D E-M5をあまり高く評価しなかった。PENの次ならばOMかよ。という単純なシフトが気に食わなかったし、何よりもフィルムカメラOMシリーズは栄光のカメラであり、今なお現役で使うフィルムカメラのうち使用頻度もかなり高い方なのである。E-M5には作り込みや、操作感など、幾つかの不満を感じていた。したがってどうしても個人的にはペンシリーズの方に強い思い入れを持ち続けてしまったのである。
また、ミラーレス機とは、一眼レフとは異なるデザインを採用することで、異なる方向性やカメラの未来型を見せてくれるのではないかと強く期待していることもある。
もっとも今ではこうしたアレルギーも完全に払拭され、アサインメントに使用するオリンパスのマイクロフォーサーズシステムのメイン機種はOM-D E-M1としている私なのだから、ゲンキンなものである。それだけ、E-M1の完成度は高いものがあった。


フィルムのPEN-Fと比べる。このモデルはメディカル仕様なのでPEN-FVからセルフタイマーを省略したものと同じ。似ているような似ていないような。やはり新しいPEN-Fはオリジナリティのあるカメラだと思う。
パンケーキタイプのズイコーデジタルM.ZUIKO DIGITAL17mmF2.8を装着してみる。レンズの種類や、見る角度によって顔が変わるのもPEN-Fの特徴だろう。眺めて触って楽しめるデジカメは意外と少ないのである。

しつこいようだが、それでもなお伝統の名称「PEN」を冠しているカメラ、個人的にはこの新しいPEN-Fこそが、オリンパスのマイクロフォーサーズカメラの王道中の王道ではないかと考えているのである。
PEN-Fは、オリンパスのマイクロフォーサーズの初号機E-P1の思想をあらためて見直し、ペンの存在とは何かをあらためて打ち出してきたものと結論づけてよいと思う。フィルムカメラPEN-Fは初号機のPEN E-P1の方が似ているくらいなのだ。
興味深いのはオリンパスがPEN-Fを「レンジファインダースタイルカメラ」と公式にアナウンスしていることだ。これは大胆である。たしかにフィルムPEN-Fはペンタプリズムの三角屋根がボディ上部に盛り上がった「一眼レフスタイル」ではなかった。
ポロプリズムミラーとロータリーフォーカルプレーンシャッターという巧みな技術の搭載で、フラットな形になったのである。たしかにデザインだけをみればレンジファインダー的なスタイリングに捉えることもできるかもしれないけれど、本質が大きく異なる。



ハーフサイズ一眼レフフィルムカメラのPEN FT(左)とPEN F(右・メディカル仕様)。ポロプリズム方式を採用することで一眼レフでは必然とされたペンタプリズムを排するという画期的な設計で、ボディ上面はフラットになった。通常のカメラホールドでは縦位置画面になるため、レンズはボディ中心から離れたところに位置し、カメラを縦に構えても操作しやすいのがデザイン的な特徴となっている


わがままな個性派デザイン

新しいPEN-Fの全体をみるとフィルムPEN-Fのデザインに加えて、バルナックライカにも似たクラシカルな雰囲気を持っているのが興味深い。前面にあるダイヤルがそうみせるのか、それともメインスイッチの形か。それにペンシリーズ初のファインダー内蔵ということも注目されている。
ダイヤルやスイッチ類の加工、貼り革のシボのこだわり、バリアングルモニターを裏返して収納できる点など、機能や写りとは一切関係ないところを強く訴求してきたことも注目してよい点だろう。つまり、写りとは一切関係のないところまでコストがかけられ、動作感触にも気配りされている。道具としての見直しがはかられていることは注目してよい。

クリエイティブダイヤル。アートフィルター、カラークリエイター、カラー/モノクロプロファイルコントロールの切り替えを行う。アクセントのための無理やりな存在というふうにも見えるが、遊び心の方を評価する。もちろんJPEG派には便利に使える

メインスイッチ。バルナックライカの巻き戻しノブのようだ。ローレットの刻みがよく、トルクも適宜なので、指の腹で操作する感じが気持ちがいい。無意味に操作してしまいたくなる。

露出補正ダイヤルも表に出してきた。賛否はあるものの、瞬時に設定は可能になるので便利に使える。個人的には操作しやすく好きな位置だが、収納したカメラを取り出す時など、不用意に回ってしまうこともあるので注意は必要だ。ダイヤルのローレット加工が美しいことも高く評価。

シャッターボタン。金属の懐かしい仕上げ。レリーズ穴があるのは現行オリンパス機では本機だけということになる。もちろんリモコンでもシャッターは切れる。

ただ、このスタイリングでは、大口径のズームレンズや、超望遠レンズはバランスが悪くあまり似合わないようにみえる。もちろんこれらのレンズを使用してはいけないという決まりがあるわけでもなく、実際に使用しても想像より快適に使うことができるのだが、装着レンズとのマッチングさえも真剣に考えさせられてしまうカメラ、わがままな個性派デザインのカメラ。それがPEN-Fなのである。


モードダイヤル。C(カスタム)の文字が目立つ。このダイヤルをシャッターダイヤルにするという選択肢もあったはず。実際に企画段階ではそうした案もあったそうだが、絞り環のないカメラの場合は操作が煩雑になる可能性がある。

バリアングルの液晶を収納した状態。裏側にも貼り革が貼ってあるという凝り方はすごい。再生画像はファインダーでも見ることができるからこれもありだ。出荷時はこの状態で収納されているというから徹底している。

ボディ底面。ネジが一つもないという徹底ぶりである。製造やメンテナンス時には非効率なようにも思うのだが、もちろんきちんと対処されている。Made in Vietnamの文字がある


機能面でもオリンパスのマイクロフォーサーズ機では初の有効画素数2000万画素を超えるLive MOSセンサーの採用や、きわめて有効な効果を得ることのできるボディ内5軸手ブレ補正の搭載など一切の妥協はない。
今後は人気のOM-Dシリーズと、PENシリーズはどのように棲み分けを行い、独自の個性を打ち出してゆくのだろうか。個人的にも仕事で使うOM-D E-M1とプライベートで持ち歩くカメラは分けたいという思いがあるので、PEN-Fは常に自分と共にあるカメラとして役割を担うことになるだろう。
今はスマートフォンがあればカメラは必要ないと考えられてしまう時代である。「カメラ」というアイテムが人にとってどのような存在なのかをPEN-Fは問うているようにも思えるのだが、その趣味性の高さは誰しもが認めるところだ。



ファインダーアイピース。半月型になっているのはすごい。Dカップと呼ぶが、医療機器では珍しくないという。規格品とは異なるデザイン的な個性を打ち出す。EVFは236万ドットと繊細。ファインダー倍率は0.62倍(35ミリ判換算)

十字キー。操作視認性に優れるが、もう少し立体的に指がかりが良い方がいいかもしれないが、誤操作を防ぐためか。


単焦点レンズで街に切り込むスナップシューター

デザインに凝っても、スペックが弱いならば、単なるお遊びのカメラとなってしまうが、真面目なオリンパスがそんなことをするわけもない。PEN-Fはもちろんアサインメントに使用しても十分すぎるくらいの性能を有しているし、PENシリーズのフラッグシップ機という立場になるはず。
レスポンスは非常に優秀でまったく不満はなかった。コマ速度も最高10コマ/秒と十分すぎるほどで、私などはあえてHポジションでの最高コマ速度を5コマ/秒程度に抑えているほどである。高速連写を行わないからだ。
唯一気になったのはEVFの自動切り替えにわずかにタイムラグがあることか、斜光線の状況で、アイピースのセンサー部分に光が当たっても切り替えがうまくいかないことがあることくらいか。
ファインダーがオフセット位置にあるためカメラのファインダーを覗くホールディングも自然と「ライカスタイル」になるのも面白い。想像したとおり小型の単焦点レンズとの相性が抜群によく、街に切り込みたくなるカメラである。スナップシューターにはオススメのカメラである。



初号機のPEN E-P1と同時に発売された光学ファインダーVF-1を装着。EVF、OVF、背面モニターが使えるわけだから、いわゆるマルチハイブリッドビューファインダーとして使える。スナップシューターにはオススメ。


オリンパスの誇るズイコーProレンズシリーズでは、まだ単焦点レンズの数が少なすぎる。PEN-Fだからこそ、世間があっと驚くような高性能の小型大口径単焦点レンズを用意してもらいたかったし、本格的なパンケーキタイプのレンズも必要だろう。
私の使い方では前面のクリエイティブダイヤルはほとんど使用しない。理由はRAW設定での撮影を前提としていることだ。デフォルトでもOLYMPUS Viewer3で処理すればダイヤルにある要素はすべて撮影後に自在にコントロールすることができるからだ。あるいは、カメラ内RAW現像を使う手段もある。
それでも前面ダイヤルの存在を否定はしない。JPEG設定をベースにする人には便利だし、その効果はファインダーや液晶モニターでリアルタイムに認識できるし、さらにデザイン的にも美しいアクセントになっているからだ。
カメラに高スペックや高画素だけではない「何か」を求める人のためにPEN−Fは用意されたのである。


オリンパス PEN-F ギャラリー


ラフモノクロームにダイナミックトーンを組み合わせるとこんな感じ。非現実の風景が好きな人向け。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL12mm F2.0 F2.8 1/8000 ISO400 +0.7


キットレンズにもなっているM.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0で撮影。スナップショットには使いやすいレンズだが、画角が広いため散漫な画面にならないように注意したい。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL17mm F1.8 F8 1/100 ISO400 -0.7


なんでもない公園の柵のオブジェなんだけど、カラフルな服を着た子供が後ろを通ったので、後でポップアートを選択してRAW現像してみた。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL12mm F2.0 F2.8 1/800 ISO400 -0.3


モノクロプロファイルで、Redフィルターを選択して、空を暗く落としてみる。銀塩モノクロプリントでここまでやるには相当な手間がかかる。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL12mm F2.0 F5.6 1/1250 ISO200 -1.3


ズイコーデジタルM.75mmF1.8で撮影。ポートレートに向いたレンズだが、いささかシャープすぎるほどで、性能が高すぎるのではと思うこともあるが、あらゆる局面で信頼できるレンズである。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL75mm F1.8 F2.2 1/1250 ISO200 +0.3
モデル:安井真理子


大口径の広角レンズでも適宜に絞りをコントロールすれば、フォーマットサイズの大きなカメラと見分けのつかない写真になる。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL17mm F1.8 F2.2 1/400 ISO200
モデル:安井真理子


裏庭にあったアロエの花。とても素直なトーンで好感が持てる描写。画素数が上がったが、画の調子に変化は感じないし、違和感もない。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL17mm F1.8 F7.1 1/100 ISO200 +0.3


長焦点レンズとはバランスが悪そうにみえるが、実際に使用してみるとホールディングも良好で全く問題なく使用できる。手ブレ補正も強力なのでより安心だ。
OLYMPUS PEN-F M.ZUIKO DIGITAL75mm F1.8 F8 1/1600 ISO400 +0.3


<メーカーサイト>
オリンパス PEN-F
https://olympus-imaging.jp/product/dslr/penf/





 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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